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押し合いへし合い、我先にと逃げようとする村人たちを、上空から飛んできた弓矢が次々に襲う。かろうじて弓矢から逃れた村人を、覆面をした襲撃者が切り捨てた。
「……あいつらだっ! ここまで追ってきたんだ……っ!」
真っ青な顔で呟くヒースの肩を、祖父が急かすように抱いた。
「ぼうっとするな! 逃げるんだ! 早く!」
いたるところで叫び声が聞こえた。それから恐怖に怯える声も。襲撃者たちは少しの躊躇いも見せずに、逃げまどい、命乞いをする村人たちを容赦なく切り捨てる。まるで同じ人間だとは思っていないかのように。いつもは陽気で調子者の幼なじみが、血を流し、地面に倒れているのが見えた。襲撃者の剣がダーチに襲い掛かり、それを庇ったジュンシと共に切り捨てる。
「どうして……」
いつの間にかヒースは泣いていた。なぜこんなひどいことが起こっているのだろう。どうして同じ人間に対してこんなむごいことができるのか。これが現実とは思えず、ヒースは泣きながら必死に足を動かす。
「あっ!」
地面に足を取られ、母が膝をついた。その拍子に、母の腕に抱きかかえられていた妹も一緒に転んでしまう。襲撃者の一人が構えた剣が、とっさに妹を庇う母の背中に振り下ろされようとしていた。
「母さん……っ!」
ヒースは手製の投石器を取り出すと、男に向かって小石を放った。ぎゃっ、という短い悲鳴と共に、ヒースが放った石は男の額に命中した。その拍子に、男の顔を覆っていた布がはらりと外れる。
「お前……っ!」
男はとっさに顔を隠そうとするが、驚愕の表情を浮かべる男に、ヒースは見覚えがあった。男は、シュイを迎えにきたフレデリックと名乗った男の配下の一人だ。
「なんでシュイを迎えにきた王都のやつがこの村を襲うんだよ……っ」
ヒースの言葉に、男が一瞬怯んだように見えたのは、そう思いたいと願ったヒースの気のせいだろうか。
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