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 ユーゴとの生活は、村での暮らしをヒースに思い出させた。はじめは身体を慣らすところから、ヒースは少しずつ体力をつけ、鍛えていった。杖をついて再び歩けるようになったころ、ヒースは村へと戻った。村の入り口にはエリカの刻印と共にロープが張られ、人々の立ち入りを禁止していた。ヒースはロープをかい潜り、村へと侵入した。誰か一人でも助かった者がいたらという思いからだったが、そこにはヒースが知る故郷はなく、ただ荒野が広がっているばかりだった。  ヒースは自分が空っぽになった気がした。生きているのか死んでいるのかもわからない、ただのがらんどうに。そのとき、ピューイと懐かしい鳴き声が聞こえた。空を舞う一羽の鷹がヒースに向かって一直線に下りてくる。 「アズール……! お前、無事だったのか……!」  久しぶりの再会を喜ぶように、腕の中で甘えた声を上げるアズールの艶やかな羽を撫でながら、ヒースは泣いた。村への襲撃から逃れて以来、はじめて声を上げて泣いた。  ヒースの村の事情はある程度わかっていたのだろう。暗くなってからようやく戻ったヒースに、ユーゴは何も訊ねなかった。ただ黙っていつも通り夕食の支度をした。  ヒースが村の現状を知ってしばらくしたころだと思う。ユーゴに命を助けられてからも常に警戒を解かなかったヒースは、はじめて自分の話をした。心のどこかでは、ずっと誰かに聞いてほしかったのだと思う。ヒースは王都への道を諦めてはいなかった。それはあの日、別れたきりのシュイの行方を探すためでもあった。ユーゴはヒースの話を聞いた後、しばらくして重たい口を開いた。  ――お前は、その幼なじみを探してどうするつもりだ。  ――わからない。だけどシュイがもし幸せじゃなかったら、何としても救い出す。それから、俺は自分たちの村が襲われた理由を知りたい。なぜ自分の家族や村人たちが死ななければならなかったのか、その理由も。  負ったけがが完治するまで、数ヶ月を要した。だがもう十分に回復したといえるようになると、ヒースは行動を開始した。近くの集落を訪れていた行商の一行が王都までいくと知り、荷物運びとして雇われることになった。王都までの道のりは遠く、道中には山賊が出没するなど、決して楽な道のりとはいえない。それでも行商たちは用心棒や荷物運びなどを雇い、危険を承知で長い旅に出るのだ。
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