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森の奥でカサリと落ち葉を踏む音が聞こえた。ヒースは手製の投石器を振りかぶると、音のしたほうに向かって小石を放った。
「痛ぁ……っ!」
ヒースの放った石は、藪の中に身を潜めていた少年の手首に当たった。少年は持っていた手製の木剣を地面に落とす。間を置かずに、今度は左右から同時に襲ってきた。二人の少年は見分けがつかないほどそっくりで、また動きもぴったりだ。ヒースはひらりと身を翻して少年たちの攻撃を躱すと、右の少年の肘を打ち、左の少年の足を払った。そのとき、はじめに襲ってきた少年が土をつかむと、ヒースの顔目がけて投げつけた。防御のタイミングが遅れ、ヒースはとっさに目をつむる。
「覚悟!」
そのときだ。ピィーという鳥の鳴き声が聞こえたと思うと、突如急降下してきた鷹が、ヒースを襲っていた少年の頭上で威嚇するようにばっさばっさと羽ばたいた。
「わ、わ、やめろ……っ! ヒース、頼む! アズールを止めてくれよ!」
ヒースは素早く腕に革を巻くと、指笛を鳴らした。おとなしくヒースの腕に止まった鷹は、はじめから本気で少年を襲う気はなかったのだろう。少年のことなど忘れたようにヒースの腕でくつろぐ鷹を、尻餅をついた少年は恨めしげに眺めた。
「ずるいよな。さすがにアズールには適わない」
少年の言葉が通じたように、アズールと呼ばれた鷹がじろりと顔を向けた。
「俺だってアズールには適わないよ」
ヒースが与えた干し肉を食みながら、まるで親に甘えるかのような仕草を見せるアズールは、こう見えても野生の鷹だ。本来なら滅多に人に慣れることはない。雛鳥のとき、何らかの理由で親から見捨てられたアズールを、ヒースといまはこの場所にいないシュイという名の幼なじみの少年が偶然見つけて餌を与えた。それ以来、アズールはヒースたちのことを自分の親だと思っているふしがある。いまでは立派な成鳥になったアズールは、普段は森で暮らしている。
ヒースが手を差し出すと、尻餅をついた少年は悔しさを顔に滲ませたまま、その手を取った。
「あーあ、きょうもヒースに勝てなかった」
「しょうがないよ、だって相手はヒースだもの」
先ほど同時に襲いかかってきた双子のジュンシとダーチが、まだ納得がいっていないようすの少年タイシを慰める。彼らは皆、ヒースが暮らす村の幼なじみの少年たちだ。
ヒースが暮らす村では十一歳を迎える年、少年たちは成人の儀式を行う。無事に儀式を終えると、ようやく男衆の一員になれるのだ。その中でも武芸に優れた者だけが「守り人」として認められるようになる。ヒースは今年、十一歳になる。
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