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昼休憩を挟んだ後、午後の試合が行われる。王都が用意した豪華な食事をよそに、ヒースは皆から離れた場所に一人腰を下ろした。
やわらかな日差しが降り注ぐ。どこからか肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。先ほどまで興奮に包まれた客席はまばらで、どこかガランとしている。出場者たちと同じく観客たちもいまごろ昼食を取っているのだろう。中には持参した弁当をその場で広げる者もあれば、屋台で買った料理を食べている者もいた。どこか穏やかな空気に包まれる中、ヒースはわずかな休憩を取る。
シュイもいまごろはどこかで昼食を食べているのだろうか。
先ほどまでシュイがいた貴賓席は空席だった。王族たちはどこか別の場所で食事を取っているのだろう。
ヒースは一口大にパンをちぎると、黙々と口に運んだ。満腹になるまで食べる気はなかった。身体が重くなると、その分だけ動きも鈍くなる。
前半多少の番狂わせはあったものの、それ以外は順調に大会は進んでいる。優勝候補であるオースティンはもちろん、アルドも順調に勝ち進んでいた。他の出場者たちと一緒に昼食を取っているアルドを、ヒースは遠くからちらっと眺めた。持ち前の人懐っこさで、アルドは彼らの間にとけ込んでいる。先ほど自分が感じた恐怖は何だったのだろう。その場にいる姿はどこにでもいるような普通の男にしか見えないのに、皮を一枚べろりとはいだら、何かとんでもないものが姿を現すような得体の知れなさを感じる。
薄青い冬の空に鷹が舞っている。アズールだ。ヒースが合図を送ると、アズールはまっすぐにヒースの元に下りてきた。
「うわあ……っ、何だ、鷹がっ!?」
突然の鷹の登場にぎょっとした周囲のようすには気づかず、ヒースはアズールに自らの食事を分けてやる。アズールは喜ぶようにばっさばっさと羽を広げ、ヒースの手から直接餌を食べた。
「その鷹はお前の鷹か」
顔を上げると、オースティンが立っていた。その手には、山ほどの料理が取り分けられた皿を持っている。座っていいかと聞かれ、ヒースはうなずいた。
「随分人に慣れているな。飼っているのか」
ヒースの手から直接餌を食べるアズールを見ていたオースティンが訊ねる。その顔には純粋な興味が浮かんでいた。
食べるか、とオースティンが差し出した肉に、アズールが威嚇し羽を広げる。ヒースは慌ててオースティンからアズールを遠ざけた。
「すまない、人に慣れているわけじゃないんだ。俺ともう一人以外には懐かない」
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