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 ヒースが声をかけると、シュイと呼ばれた少年ははっと顔を上げた。まるで少女のような顔立ちはどこかはかなげな印象で、顎のあたりで切り揃えられた銀髪がさらりと揺れる。印象的な水色の瞳は真冬の空を思わせた。  アズールがヒースの元からさっと飛び立ち、シュイの肩に止まる。アズールがシュイの柔らかな肌に鋭い爪を立てることは決してない。もちろんヒースにも懐いてはいるが、シュイと比べたら遠慮がない分、もっと容赦がない気がする。シュイは自分の肩に止まり、小鳥のように甘える仕草を見せるアズールをやさしく撫でてやっている。幼なじみの少年たちが思わせぶりに顔を見合わせたことにも気づかず、ヒースはシュイの元へ駆け寄った。 「薬草を取りにいっていたのか。すごいな、雪蓮花(ゆきれんか)がある。老婆も喜ぶな」  小柄な少年が背負う籠を覗き込むと、中には山で取れる木の実や果物、そしてたくさんの薬草が入っていた。ヒースの言葉に、シュイはうれしそうに笑った。 「貸しな。持つよ」  ヒースはシュイが背負っている大きな籠を、代わりにひょいと背負ってしまう。 「ありがとう」 「いいよ。それよりもこんなにたくさん。大変だっただろ。遠くまでいったのか?」 「この間、薬草が多く生えている場所を見つけたんだ」 「へえ」  ヒースが感心したように背負った籠の中を覗き込むようすを、シュイがにこにこと眺めている。  シュイは村はずれで老婆と暮らしている。赤ん坊のとき人がほとんど訪れることのない山奥に捨てられていたのを、薬草を採取していた老婆に拾われたのだ。どこからともなく現れたシュイを、ほとんど年齢の変わらない子どもを育てていたヒースの両親は放ってはおけず、何かと老婆を手伝い、シュイの面倒を見たのだという。その結果、ヒースたちはそれこそ兄弟のように一緒に育った。だからだろうか、ヒースには昔からシュイがあまり言葉を発さなくても、不思議と何を考えているのかわかった。そしてそれはシュイも同じのようだった。  以前、ヒースは山奥で足を滑らせ、けがをして帰れなくなったことがある。大人たちが必死に捜索する中、ヒースを見つけてくれたのはシュイだった。無事に助け出した後で、どうしてヒースの居場所がわかったのか大人たちに訊ねられたシュイは、困ったように、ただなんとなくこっちのほうにヒースがいるような気がしたのだと答えた。
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