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 ***  傾きかけた日が、円形の野外闘技場を黄金色に染めている。武芸大会はいよいよ終盤に差し掛かっていた。次の試合に勝った者がそれぞれ決勝へと進む。 「イーハンは強いぞ。前大会のときに戦ったが、危うく負けそうになった。相手の男は見たことがないな。今回の大会が初出場か。ここまで残っているんだから、どちらが勝つかわからないな」  隣に立つオースティンの言葉に、ヒースは答えることができない。いまもこれから対戦する相手を前にして、アルドはどこか飄々としたようすに見えた。まるでこれから試合をするのではなく、どこかへふらりと遊びにきたという態度だ。  いつの間にかヒースは緊張していた。一見何てことのない光景なのに、嵐の前の静けさのような妙な胸騒ぎを覚える。何かとてつもないことが起こりそうな予感がする。  銅鑼の音が鳴り響く。合図がかかった刹那、イーハンと呼ばれる選手が攻撃を開始した。浅黒い肌を晒し、長い髪を後ろでひとつに結わいている。 「あっ!」  それは見ていたヒースが思わず声を上げるほど、電光石火の動きだった。イーハンの剣がアルドに向かって繰り出される。 「いや、まだだ」  オースティンが言うまでもなく、アルドはイーハンの攻撃を避けると、反対に攻撃を仕掛けた。目にも留まらぬほどの激しい攻防に、会場は異様な熱気に包まれていた。誰もが固唾を呑んで勝負の行方を見守っている。 「イーハンも強いが、相手の男は何者だ? あれほどの使い手、いままでどうして知られなかった? いったいどこにいたんだ?」  周囲の男たちがざわめく。その声に緊張と興奮が感じられるのは、きっとヒースの気のせいなんかじゃない。不安が胸をしめつける。なぜだろう、これ以上この試合を見ていたくない。誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえた。 「こいつは何者だ……?」  まるでヒースの心を読んだように、オースティンが呟いた。ヒースは緊張を募らせながら、目の前で繰り広げられる光景から目が離せない。  いったいこれは何だ……?  普段仕事や寮などで接するときのアルドは、一見どこにでもいる普通の男だ。だが、戦っているときのアルドはまるで別人のように思えた。闇の中で息を潜めて獲物がくるのをじっと待つ毒蛇のように、得体の知れない恐ろしさを感じる。  一方、対戦相手のイーハンも相当な使い手だ。現に聴衆は彼らの熱い闘いに我を忘れて熱狂している。だが、これは違う。おそらくアルドはまだ本気を出していない。
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