バレンタイン

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優斗さんは何も言わずに座っている。 こんなにも私が傷ついているのに、なぜ平気でいられるのか不思議なくらいだ。 私に対しての気持ちは、もう少しも残っていないのかも知れない。 優斗さんが静かに話し始めた。 「京子、俺も君からその話を聞いて驚いたよ。もちろん責任も取るつもりだった。しかし納得できないところもあって、悪いが君の子供を調べさせてもらったよ。」 白崎さんは急に顔色が悪くなり、小さく震えているようだ。 九条社長は調査書の続きを読み始める。 「君が子供を連れて行ったホテルの美容室は、生憎うちの会社のホテルでね…切った髪を貰うのは簡単だったよ。それに転んで出来た擦り傷の絆創膏を捨てているよね?うちのホテルに泊まっているとは好都合だったよ。」 優斗さんは、親子関係を調べる鑑定書を取り出した。 「京子、悪いがこの子の父親は俺では無いようだな…」 その言葉を聞いて、白崎さんは天井を見て大きく息を吐いた。 「優斗、流石だわ…私はあなたを愛していたのよ。フランスに行ったのも、私が別れを言った事になっているけど、私が優斗から別れを言われる前に逃げたのよ…あなたの口から別れを聞きたくなくてね…」 白崎さんは、いきなり立ち上がり私の横に近づいて来た。 「木下さん、優斗はあなたをとても愛しているようね。…悔しいけど、優斗はあなたにあげるわ…」 白崎さんは、私達全員に笑顔を見せると、明るく手を振った。 「皆さん、さようなら!邪魔者は消えるわ…」 白崎さんは、明るく振舞っていたが、背中が震えている。 私は思わず立ち上がり、白崎さんを追い掛けた。 「白崎さん、待ってください!」 白崎さんは、驚いた様に私に振り返った。 「白崎さん、優斗さんは必ず私が幸せにします。だからあなたも幸せになってください。私よりずっと素敵な白崎さんは、幸せになれるって信じています。」 白崎さんは少し時間を置いた後、柔らかい笑顔を見せてくれた。 「あなたを芽衣さん、と呼んでいい?またあなたと会えるかしら?」 「はい。京子さん!また近いうちにお会いしましょう!」 白崎さんは、涙を浮かべながら、笑顔で手を振ってくれた。 レストランの席に戻ると、九条社長は私を見てクスッと笑っている。 「芽衣ちゃん、貴女は本当に最高の女性だね。気が利かない藤堂には勿体ないよ!」 優斗さんがゴホッと咳払いをする。 「九条、今回は本当にお世話になったな。この通りだ…」 優斗さんが立ちあがり、深くお辞儀をした。 「藤堂、僕よりもお詫びしなくちゃいけない人が、ここに居るんじゃないのか?僕は気が利くからさぁ…ホテルの部屋も準備しておいたよ。今日は僕から芽衣ちゃんへのプレゼントだよ。」
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