残業

2/11
273人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
-------カチャ----- ドアの開く音が聞こえた。 「---木下さん!まだ残業していたの?」 接待の帰りなのか、ネクタイを少し緩めて気だるそうに男性が入って来た。 藤堂 優斗(とうどう ゆうと)27歳 端正な顔立ちのこの男性は、営業成績ナンバーワンで、しかも会社代表の御曹司と華麗なプロフィールだ。 ルックス、実力、お金、全てを兼ね備えている。 女性たちが放っておくはずが無い。 私も入社当時は、他の女子同様に憧れ、例外なく好きになった。 しかし、最近では私には手の届かない存在と現実を知り、好きになる気持ちも封印した。 好きになったら自分が惨めになりそうだからだ。 「木下さん、いつも遅い時間まで仕事しているね…」 「…はい。仕事が遅いのかも知れません。ハハハ…」 作り笑いをしながら、後ろを振り返ると、すぐ横に藤堂さんの顔がある。 (-----------ちっ…近い!-----------)- 驚いて心臓がドクンと音をたてた。 近くで見ると、整った綺麗な顔はすごい破壊力だ。 じっと私のPC画面を見た後に、何故かフーと大きく溜息をついた。 「…なるほどね、そういう事か…」 私は何のことか分からず、ポカンと口が開いた。 酷く間抜けな顔になっていただろう。 「その資料、共有ファイルに入れて。俺も手伝うから…」 「い----いいえ---私の仕事ですから---」 すると、藤堂さんは私の頭を後からポンと叩いた。 訳も分からず、戸惑っていると… 「…これは、他の奴に俺が頼んだ資料なんだよ。もともと俺の資料だから、自分でやれば早いし、このままだと木下さん徹夜になるぞ…」 私が共有ファイルに資料を入れると、藤堂さんは無言でカタカタとキーボードを打ち始めた。 夜のオフィスに、カタカタ---とPCを打ち込む音だけが響き渡った。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!