残業

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藤堂さんは、困った顔をしている私の顔を覗き込むと、クスッと悪戯に笑う。 その表情に、心臓がまたドクンと大きく鳴る。 エレベーターが一階に着くと、フロントの女性が丁寧に挨拶をする。 「藤堂様、おはようございます。」 「おはよう…ちょっと出かけてくる…」 藤堂さんはそのまま私の手を掴んで、マンションの外に出た。 私は、こんなところを誰かに見られたら、藤堂さんにご迷惑を掛けてしまうと思い、慌てて藤堂さんを止めた。 「と---藤堂さん!!手を離して頂けますか?誰かに会ってしまうかも知れませんよ。」 「う---ん、俺は気にしないけど---見られてまずい人もいないし。」 見られてまずい人が居ないということは、彼女が居ないという事なのか。 それとは逆に、特定の女性を作らず、いろいろな女性が家に来ているという事なのか。 私が気にすることではないけれど、どちらにしてもご迷惑だけは掛けたくない。 「ねぇ、木下さん。女性は朝に何が食べたいの?」 「あ---あの---いつも藤堂さんが女性と行くところがあればそこで良いです---」 藤堂さんは、立ち止まり顎に手を当てて考えている。 そして、何故か私をジッと見た。 「ねぇ、木下さん。俺の事を誤解してない?」 「------誤解とは?」 何を言っているのか、全く分からない。
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