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胸に満ちる温かい感謝の思いが、別になくなりはしなかったけどすうっと半分くらい抜けていった気がした。まあ、わたしが苦しんでる様子を見て柄にもない仏心を起こした、ってのは嘘でもないだろうけど。…そもそも出会う前から相当の熱量で、未知の村に対する好奇心に駆られていたのは間違いない。
由田さんに本心をずばり突かれても、蒲生先生は全く悪びれる様子もなかった。空になった氷ばっかりのグラスを掲げて、カウンターの奥に収まってる店主に向けてすいませんホットのブレンド、追加で。と声をかけたあと、由田さんの方をろくに見もせず平然と受け流す。
「え、それは別におかしくないだろ。だって俺、民俗学者だよ?不思議な習俗がある前人未到の隠れ里が存在してるって言われたら。何を置いてもまず、そこにある謎を知りたいと思うよ。発表できるかどうかなんてとりあえず後回し。純粋にただ知らないことを知りたいっていうのが。…そもそも学者って生き物の本能だろ?」
《第9話に続く》
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