光る鱗

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 私の一番最初の記憶は、馬鹿みたいに青い空だ。  龍は、高く青い空を鮮血で濡らした。あの人は鈍く光る刀で龍を一太刀のもとに切り裂いた。怯えて震える私に向かって、あの人は血に塗れたまま微笑んでいた。  電車の中で、私は遠い昔のことを思い出していた。頭が痛い。今になってこんなことを思い出すなんて、と自嘲が漏れる。私が乗っているのは地獄行きの電車だというのに。  初めて龍が観測されたのは3012年の夏、日本でだった。科学者たちはこぞって正体を暴こうとし、それは蛇の仲間だと結論付けられた。龍は人を食った。当初はその性質により大量の犠牲者を出したが、次第に人々は慣れていった。  龍を使った商売が生まれた。竜の鱗は高価な代わり、万病に効く薬とされた。もちろんそんな訳はないのに、皆騙された。私もそうだった。  借金だけには手を出すまいと決めていた。そんな安い決意は一夜で崩れた。    利益を得たなら対価を。龍で富んだなら龍にも富を。助けられたのなら、見返りを。  頭の中で龍が暴れているようだ。  記憶の底で笑うあの人は、何かを言っていた。何を言っていたのだろうか。今となっては確かめるすべもない。 「ねえ、君――」  痛みに任せ、私は深い微睡みの中に沈んでいく。記憶の奥底で竜の鱗が光る。青い空の下で、赤い血の中で。  きらきらきらきら。  きらきら、きらきら。 「ねえ、君」  君の手にあるその光るもの、僕も欲しいんだ。
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