272人が本棚に入れています
本棚に追加
第二十六章 愛ゆえに
一連の事件を終えて帰宅すると、志乃はすぐに風呂へ入りたがった。
「もう、入ったじゃないか。それに、手足の治療をしないと」
「あの男に、頬っぺた触られて、気持ち悪いから! 早く洗って、きれいになりたい!」
大丈夫かな、とバスルームへ消えた志乃をうかがっていた章だったが、彼は案の定すぐに出てきた。
「章さん、痛い~!」
「ほら、言った通りだ」
手錠で擦れた手足の傷に、ボディソープが沁みて、飛び上がるほど痛いのだ。
泣きっ面で、志乃は章に包帯を巻いてもらった。
彼の大きな手のひらが、細い足首を慎重に支える。
その体温を感じ、体の奥が疼いてきた、志乃だ。
「……ね、章さん。章さんも、お風呂に入ったら?」
「そうだな。志乃くんは疲れてるだろうから、もう休むといいよ」
「うん。先に、寝室に行くね」
ありがとう、と手当てのお礼を言うと、志乃はそそくさとベッドルームへ向かった。
そんな彼の背中を見送った後、章はバスルームへと歩いた。
冬場は寒いので、ゆっくりバスタブで温まろうと考えていたが、シャワーだけで済ませてしまった。
「志乃くん。ちゃんと、いるよね?」
湯に浸かってのんびりしている間に、また志乃が消えてしまわないかと、心配でたまらないのだ。
粗く拭き上げた体にパジャマを引っ掛けて、章は寝室へと急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!