第一章 夢への第一歩

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 課長の、いつものいびりを、いつもの妄想で耐え抜いた、章。  定時にはさっさとデスクを片付け、狭い社員寮の自室へ帰った。 「早く帰っても、特にやることは無いんだけどな」  室内には、必要最小限の家具しか置いていない。  いつか絶対に引っ越してやる、と考えているので、物は増やさないようにしている。  ルックスは悪くないし、穏やかな性格の章だ。  会社の同僚たちに、食事に誘われることはある。  その中の誰かに、好意を寄せられたこともあった。  しかし、学生の頃から、まともに特定の一人と付き合ったことが、ない。  どうしていいか、解らない。  返事ができず、もたもたしているうちに、その人は他の社員と恋仲になってしまった。  アルファでありながら、どこか気弱な草食系男子。  そんな章の、唯一の趣味は、宝くじだ。  今度こそ、当たるかも。  当たったら、何をしようかな。  庶民の儚い願望を胸に、毎度くじをネット購入している。 「そうだ。今日は、ジャンボの抽選日だった」  もう、当選番号が案内されているはず。  章はスマホを操作し、サイトを開いた。  そして、番号を確認した。  3回、見直した。  そっとスマホを閉じ、ベッドへ潜り込んだ。  そのまま、眠った。  翌朝、起き出して一番に、もう一度当選番号を確認した。 「当たった……。夢じゃない、ホントに当たったんだ……!」  章の購入したくじは、見事に高額当選を引き当てていた。  一等前後賞合わせて、10億円だった。
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