第一章 夢への第一歩

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第一章 夢への第一歩

 名前を呼ばれて、諏訪 章(すわ あきら)は顔を上げた。  ここは、彼の勤める会社のオフィス。  新採からすでに、6年以上経っていた。  いくつも並ぶデスクの、上座の方で課長が手招きをしている。  小さく息を吐くと、章は立ち上がった。  立てば、章の高い身長は、さらに高く見える。  学生時代に力仕事のバイトをやっていたおかげで、体つきも悪くない。  黒い髪に、黒い瞳。  面立ちは優しく、端正だ。  その唇を少し引き締め、章は課長のデスク前に進んだ。 「お呼びでしょうか」 「ああ。あの、さ。今回の新商品。その広告デザインなんだけど」  章は、社の公式ホームページに掲載する商品の、広報担当だ。  課長は、その写真や色調、デザインの配色やフォントにいたるまで、ねちねちとケチをつけ始めた。  周囲の社員は、見て見ぬふりだ。  章自身も、もう諦めていた。  課長の、こういった章いびりは、いつものことなのだ。  第二性がベータの自分が、アルファの章の上位に立つ。  そこに、ゆがんだ快楽を見出しているのだ。
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