腹ペコ獅子王様は、小獣族のシェフ娘をご所望です!?〜獲物を溺愛するのはやめてください!〜

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「お待たせいたしました。ブラックタマナンのポワーレと旬菜のクーム、ソース・ペリグデニーラでございます」  これはメロディがガウルに食われかける、ほんの数時間前のこと。本日自分に降りかかる災難など知る由もないメロディは、シェフらしい洗練された仕草で、見た目も美しい料理の皿を客の前に置いた。人族の中年男性である客は、シェフ帽を挟んで揺れる、メロディの獣耳をしげしげと眺める。 「君は……小獣族か。珍しいな、初めて見たよ」 「私はこのレストランで唯一の獣人族です。シェフをさせていただいております」  獣耳を揺らしながら、品の良い笑みを浮かべるメロディ。  ――ここは、獣人族と人族が暮らす美食の国、グランドル王国。王都には三ツ星レストランがひしめき合い、各国から一流の料理人が集まる、まさに料理の聖地だ。  この国に暮らす獣人族は、獅子族と小獣族のみ。大多数を占める人族も入れて、三つの種族が共存している。  王都を中心に、華やかな暮らしをする人族。どこかに王城を築き暮らしているという噂を残し、他族との関わりを避け、その姿を隠してしまった獅子族。そして天敵である獅子族を恐れ、ググルの森の奥深くで息をひそめて暮らす小獣族――  客の男性は料理に手をつけることも忘れ、驚いたとばかりにメロディを見ている。 「小獣族が森から出てくるとは。天敵の獅子族を恐れて、森の奥に隠れ住んでいると聞いていたが……」 「はい、その通りです」 「獣人族は大変だね。食いも食われもしない人族でよかったよ。獅子族に見つかる危険があるのに、出てきて大丈夫なのかい」 「失礼ですがお客さま、獅子族をご覧になったことは?」 「……いや、無いな」 「私が森から王都に出てきて、三年が経ちました。獅子族が本当に存在するならば、私は今頃彼等の胃袋の中。しかし私は元気に生きております」 「……つまり?」 「つまり! おそらく獅子族は、絶滅してしまったのです!」  拳を握りしめて力説するメロディを、ぽかんと見ている男性。メロディはにっこりと笑うと、「では、失礼致します」と踵を返す。厨房に引っ込むと、他のシェフ達に並んで次の料理に移る。肉を手早く焼いて、仕上げにフランベ。 (獅子族に怯えて、一生森に隠れてる訳にはいかなかったのよ。だって私には、大切な夢と約束があるんだもの)  手際良く仕上げながら、メロディは過去に思いを馳せる。  獅子族は小獣族を喰らう、だから森を出てはいけない。メロディも幼い頃から、ずっとそう言い聞かせられて育ったし、それが小獣族の常識であり掟でもあった。  だが掟を破り、王都に出かける者が多かったのも事実。しかもどの者も無傷で戻った。そして口を揃えてこう言うのだ。王都は平和だった、獅子族などいなかった、と。  そうとなれば、メロディの行動は決まっていた。幼い頃から料理が生きがいだったメロディは、やがて王都の三ツ星レストラン目指して、ググルの森を抜け出したのだ。
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