腹ペコ獅子王様は、小獣族のシェフ娘をご所望です!?〜獲物を溺愛するのはやめてください!〜

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 ググルの森に戻ってからというもの、メロディは王都に出るチャンスを待った。そして17歳のある日、ついに森を飛び出したのだ。すぐに料理人見習いとして職を得て、腕を見込まれのし上がった。今では「小獣族の料理人メロディ」の名前も知られてきているところだ。 (あとは料理長になるだけ)  優雅な料理人の顔で料理の皿を運びながら、内心で初恋の淡い想いをかみしめる。  メロディの夢と約束。それは王都でシェフとして名を売り、初恋の少年に食べに来てもらい、約束を果たすこと。その目的に向かって順調に事は進んでいる。  メロディは現在20歳になるが、小獣族であるが故に、未だ15歳前後の少女に見られがちだ。そんなメロディをトップに置き辛いのか、今のところ料理長になれる兆しはなく、道のりは険しくなってきたところだが……。 「ふう、今日も頑張ったわ」  夕方、レストランの営業時間も終わり、メロディはシェフコートのまま外に出てきた。 (帰ったら料理の研究よ。今日はマグラレリア国のマグラレリア料理を……)  軽い足取りで歩いていたメロディは、ふと、道の隅に何やら黄色い物体を発見した。 (あれは何かしら?)  近づくとサッと逃げていく。メロディは目を閉じて、小さな鼻をクンクンと動かす。 「この匂い! 幻の人参クルム・カロータ!?」  普通の人参と比べて風味も食感も格段に柔らかく、甘い香りがある黄色い人参だ。グランドルにおいてその栽培は困難とされ、市場に出回ることはほとんどない。メロディも未だ乾燥粉末しか見たことがなかった。 (調理してみたい!!)  逃げる人参を必死に追いかけ、手を伸ばす。 「やったわ! 獲れた!!」  クルム・カロータを握りしめ、メロディが歓喜に満たされたその時、突然大きな網が襲いかかってきた。 「きゃあっ!?」  あっけなく網にかかり囚われてしまったメロディの耳に、獣の唸り声が飛び込む。暗闇の中から姿を現したのは、巨大な獣二匹。 (獅子……!? 嘘でしょ!?)  一匹がメロディを網ごと咥えて放り投げると、もう一匹がメロディを背中で受け止めた。二匹はそのまま猛スピードで駆け出す。 「ええええ!? ちょ、ちょっと待って……!!」  これだけ早く走っていると、落ちれば死にかねない。放り投げられまいと、必死にしがみついているので精一杯だった。  あっという間に王都を出て、森を駆け抜ける。木々の合間から出ると、眼前に岩の裂け目が迫っていた。馬車では到底渡れないほどの巨大な裂け目だ。 (うそ、落ちる!!)  獅子は地面を強く蹴り、メロディを乗せたまま宙を舞う。夕陽を背に軽々と飛び越えた獅子は、無事に着地した。 (死ぬかと思った……)  獅子が再び駆け出すと、景色が高速で流れていく。やがて辺境の地にひっそり建っている、殺風景な石の城が見えて来た。城の前に到達し獅子たちがようやく止まると、それまで全身全霊でしがみついていたメロディは、疲れと緊張の糸が切れたのとで気を失ったのであった。  そして、意識を取り戻すとこの状況……ベッドの上でガウルに食われかけているのである。
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