セーブポイント・モラトリアム

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「選択肢が表示されましたか?」 「ああ」 「それでは、どうぞご利用ください」 「わかった……って、いやいや。ちょっと待ってくれ」 「何か問題でも?」 「問題というか、あまりに突飛すぎて受け入れられないというか」  眉根を押さえながら、俺は言った。無理もありません、とセーブポイントはこたえた。 「質問等ございましたら、できる限りはお答えします。ご利用者様あってのセーブポイントですから」  やけにウヤウヤしい。まぁ、お言葉に甘えることにしよう。 「そうだな……まず、どうしてこの場所に現れた?」 「場所、という点に関しては偶々という他ありません。そもそも私どもは、ある地点や座標を目安に出現するわけではありません。あくまで、物語上に顕現する存在なのです」 「物語?」 「ええ。私どもを観測する者の人生、といった方がわかりやすいでしょうか。その中で生まれる、とりわけ大きなうねり――命や未来を揺るがす、博打や決断、はたまた幸福や絶望に呼応した夜に、私どもは出現します。その時機を、私どもは転換点(プロットポイント)と呼んでおります。お心あたりはありませんか?」  ――ある。そして、このセーブポイントが、俺のイメージする通りの機能を果たすならば、その問題が解消されるかもしれないのだ。次は、そこを確かめねばならない。 「ここでセーブをしたら、何度でも今夜からロードすることができる……その考え方で間違ってはいないか?」 「左様でございます」 「ロードの条件は?」 「貴方様の命が尽きることです」  ファンタジーとしては、ありがちな設定だ。やはり、自由自在に、というわけにはいかないらしい。しかし、そこについては問題はない。 「死んだら、ここからやり直せると?」 「はい。付け加えると、強制的にロードされる形になります」 「強制的に……ということは、永遠に同じ期間を繰り返すことになるってことか」 「もちろん、この先の物語上に、新たなセーブポイントが現れる可能性もございます。その場合、上書きセーブをすることもできます。人生が好転している状況であれば、効率を優先していただくのも良いかと思います」  セーブデータが一つしか残せないゲームと同じだ。セーブを繰り返す事でやり直しの期間を短縮することができるが、上書きすることによって取り返しのつかない問題が発生する事もある。だが――。 「その仮定は無意味だろうな。この先、新たなセーブポイントが俺の前に現れることはないと思う」 「と、言いますと?」 「俺はもうすぐ死んじまうらしいんだ」  自嘲気味に俺は言った。 「余命数ヶ月と医者に言われている。多分、君が俺にとっての最後のセーブポイントだ」
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