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「やっほぉ、啓介おっひさー」
一足先に飲み屋で待っていた俺の前に現れた由佳は、トレンチコートにネイビーブルーのパンツといった学生さながらのいでたちをしていた。
「意外と早かったな。けど、社会人だってのに雰囲気ぜんぜん変わんねーな」
「なんだとぉ、ソッコーで仕事を撃破してきた企業戦士への第一声がそれか」
「社会の真実とはシューティングゲームかよ」
「そそ、いかに面倒事を避けるかというゲームでもあるのだ。よく覚えておきたまえ学生君」
ウィンクをして向かいの席にどっかと遠慮なく座り、よく通る声で「おばちゃん、生ひとつ!」と注文を済ませる。
「まだ飲酒歴一年のくせに、すっかりおっさんだな」
「将来のおっさんにおっさん言われたくないわ」
由佳は小学校時代からの気心知れた同級生で、今年短大を卒業して就職し、多忙な日々を送っている。けれど声をかければ必ず飲みに付き合ってくれる義理堅い奴だ。今回も普段と変わらず、二回返事で承諾してくれた。
俺もいよいよ就職活動が始まるし、卒業論文だって待ったなしだ。それでも由佳に声をかけられれば、断ったりなんてしたくない。
なぜなら由佳との関係は、超安定、永久不滅の「親友」だからだ。恋愛感情の欠片もなかったことが、盤石の関係の理由なのだと互いに心得ている。
ビールと大皿の焼きほっけが運ばれてきた。由佳が「もうすぐ着くよ」と連絡をくれたので、あらかじめホッケを頼んでおいた。見るやいなや、由佳はにやりと口元を緩めた。
「今日もわざわざホッケ戦争するんだー」
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