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美咲ちゃんはテニスサークルの後輩で、仲良くなって一緒に食事に出かけていた相手だ。
先輩らしく、完璧なエスコートを心がけ、入念にデートコースの下調べをしていた俺。
後輩らしく、いつも笑顔を絶やさず、おくゆかしく俺の一歩後をついてくる彼女。
そしてふたりで挑むダブルスの試合は、美咲ちゃんと俺の絆を深める最高の青春劇場だった。
試合には負けたけれど、帰り道での告白に、美咲ちゃんは嬉しそうな顔で首を縦に振ってくれた。
由佳はうっとりした顔で俺の青春ストーリーを聞いている。
「そっかー、人生初の彼女だね、おめでとう」
「というわけで、ついに彼女いない歴21年に終止符が打てました。どもっす」
美咲ちゃんは由佳にとって、俺のスマホでしか知らない他人同然の相手だ。だからどんな相手なのかしつこく詮索されると思っていた。
由佳は目を伏せて少し考え事をした後、俺を上目遣いで見てひとこと。
「そしたらさ、おさらいしてみようか」
「ん? 美咲ちゃんがどんな子かってこと?」
「ちがうって、あたしと啓介のことだよ」
「はぁ? なんで今?」
「とにかく、なんでもだよ」
由佳は話題を無理やりふたりのことへと引き戻す。
「まぁ、いいけどさ」
「じゃあ、順番に行くけど――初めて飲みに行った時のこと、覚えてる?」
「まあな。だって昨年のことだろ?」
俺より早く二十歳を迎えた由佳は、俺が二十歳になるまでアルコールを一滴も口にしなかった。義理堅いことに初の飲み会は俺とやろうと決めていたらしい。
だから二十歳を迎えた日、俺は由佳を連れ立って飲み屋に足を踏み入れた。
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