76人が本棚に入れています
本棚に追加
第7話.望まぬ再会
成世が医務室を出て行った後。
施設の廊下で、彼は思わぬ人物と遭遇した。
「……2番様」
「おわ、桜さん?」
背後から声をかけられ、振り向いた先にいたのは、桜色の髪を持つ、白衣を着た無表情の長身の男。
2番様、と感情のともらない声で成世を呼んだその男は、成世と目が合うと、虚ろな目をしたまま、おもむろに口を開いて言った。
「……1番様より通達が。至急、二階の会議室へ来るようにと」
「真堂さんが?……え、でも俺、さっきあの人から仕事命じられたばっかなんだけど…」
「その件に関しては、既に他の方に代理を命じられたそうです。とにかく、急いで来てほしいと」
成世の問いにも、男は機械的な返答しか返さない。
この長身の男……桜は、組織の中でも雑務を担当している人物だった。
性別は、αばかりの組織では珍しいβ性。
こんな実体もわからないような組織で雑務だなんて、とは思うものの、彼は今回のように指示を伝達したり、出資者でも運営人でもないことを利用して、両者の均衡と秩序を保つ重要な役割を担っていたりもする。
とある事情で、命じられた行動以外とることができないというのはかなりの難点だと感じるが、それでも成世たち運営人が仕事を滞りなく行えるのは、彼のおかげだということは確かだった。
急な要求に成世は内心小首をかしげたものの、真堂の命令に背くわけにもいかず、わかったよ、と小さく頷く。
成世が真堂の指示を誤解なく了承したと見受けると、桜は会釈をし、回廊の奥へと消えて行った。
一方成世も踵を返し、真堂の待つ二階の会議室へ向かって歩き始める。
……だが、成世はこの時、もっと警戒しておくべきだったのかもしれない。
たった今自分に伝言を伝えた彼が、自身の身近にいる人物の中で唯一、出資者と接触が図れる人物であったということに。
最初のコメントを投稿しよう!