第1話.とあるαの夢

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第1話.とあるαの夢

 ─昔から、何もかも退屈でたまらなかった。  次期当主の座を巡って、対立を繰り返す兄と妹も。  始めからありもしない当主の寵愛を得るため、後継者となるよう強要してくる母親も。  自身の金と名誉のために、擦り寄ってくる周囲の人間も。  何をしてもつまらなくて、馬鹿馬鹿しくて。  全部壊れてしまえばいい、と。  そう思ってしまうほど、自分の人生にうんざりしていた。  ……だけど、そんな矢先。  兄に、このゲームに売られた。  ……大して驚きはしなかった。  財閥家がゲームの主催に加担していることは、前々から知っていたから。  兄がその権利を得るために、父親である当主を事故と見せかけて殺害したことも。  それでもその兄が自らを脅かす妹ではなく、僕を売ったのは何故か。  理由は簡単だ、試されている。  僕が兄にとって、利益になるのかどうか。  脅威とならないのかどうか。  殺すのが目的ではない。  兄は言っているのだ、「私の役に立て」と。  だから僕は、それを証明するためにゲームを生き残り、運営人となった。  そして、そこで成世と出会った。  初めて見た彼の目は、復讐に駆られていて、これ以上ないほど暗く歪んでいて。  自分には無い、何かに酷く執着する目で。  その時初めて、欲しい、と思った。  だからかもしれない。  …理性が飛び、何かを渇望してしまった、あの時。  咄嗟に、彼を求めてしまったのは。        
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