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現在4
健人は、夜の道をキョロキョロしながら歩いていた。
約束の時間が過ぎてもアパートの部屋に来ず、電話やSNSにも出ない友人を心配して探しに来たのだ。
「おっかしいなぁ……」
健人は途方に暮れて頭を掻く。一度、陸也のアパートを訪れたが留守だったし、すれ違うこともなかった。
もう一度電話をかけてみる。
プルルルルという電子音が虚しく続くだけで、一向に出る気配がない。
電話を切り、大きくため息をついて、健人は歩を進める。
いつもと違う道を通ったかもしれないと、あえて遠回りになる道を行く。
ふと、遠くの街灯に照らされている薄紅色の花が目に入った。
健人の住んでいるアパートから近い空き地で、以前陸也に穴場と言ったところだった。
「1本だけぽつんとある桜はダメ、か……」
何となく思い出してつぶやくと、何かが桜の近くに落ちていることに気がつく。
近づくとそれは水色のマイバックだった。中には酒とつまみが入っている。
「これ……」
健人は目を見開いた。見覚えがあると思ったら、そのマイバックは陸矢が使っているものである。
健人は慌てて周りを見渡す。陸也の手がかりがあるかもしれないと探して。
だが、いくら見渡しても、桜の花びらが音もなく舞っているだけだった。
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