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 僕は桜が嫌いだ。  あの子のことを思い出してしまうから――。  ※ 「なぁ陸也、花見したくね?」  大学の友人、健人の呑気な言葉に、僕は眉を顰める。 「全然したくない」 「えー、ノリ悪いなあ。ガッカリ」 「はいはい」  健人はいかにも残念そうだというように、大袈裟に項垂れる。いつもの健人特有のオーバーリアクションであるため、僕は真面目に取り合う気はなかった。 「でもなぁ、見ろよこの満開の桜! これを愛でなきゃ日本人じゃねぇって気がしないか!?」  健人はぐるっと両手を広げて一回転した。  健人と僕が今通っているのは、満開の桜で両側を囲まれた大学までの道である。 「全く思わないな」  ひらひら舞う桜の花びらと、薄紅色の花を咲かせる木々をなるべく見ないようにして、僕は素っ気なく答えた。 「ひょっとしてお前、宴会とか人混みとかダメなタイプか? ならいい穴場があるから……」 「絶対に嫌だ!!」  僕は健人の言葉を遮って叫ぶ。 「ふぇ?」  突然僕が大声を出したことに呆ける健人の肩を、僕はガシッと掴んだ。 「いいか、こういうたくさん人が通るところや、いくつもの桜が植えてあるところはまだいいんだ。だけど1本だけぽつんと植えてある桜はダメだ!」 「だ、ダメって何が?」  戸惑う限度を見て、僕ははっと我に返える。 「あ……え、ええっと、ごめん」  慌てて手を離す僕に、健人は苦笑した。 「いいって、苦手なもんは人それぞれだよな。俺も異様に眠たくなる授業とか苦手だし」 「……それはなんか違くないか?」  呆れる僕に健人は朗らかに笑う。  その後、健人は昨日見た動画の話を始めた。もう、桜の話題は一切しなかった。
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