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過去2
「君、だれ?」
満開の桜の下に立つ少し年上の少女に、幼い僕は勇気を振り絞って声をかけた。
人見知りの僕がこうやって声をかけたのは、その子があまりにも美しくて、話したい要求が抑えられなかったからだ。
少女は柔らかく笑うだけで、何も言わなかった。
代わりになにかに誘うように、白く透き通った手を僕の方に差し出てきた。
「陸也!!」
ばあちゃんの悲鳴が聞こえたのは、僕がその手に自分の手を重ねようとした時だった。
びっくりして固まる僕を、ばあちゃんは少女から離すように強く抱き寄せた。
「悪いがこの子は連れて行かせん! 諦めてくれ!」
必死の形相で少女に向かって叫ぶばあちゃんを見て、僕はただただ驚くだけだった。
少女は残念そうにしゅんっと項垂れると、フッと消えた。
後に残ったのは、ばあちゃんに固く抱きしめられる僕と、満開の桜だけだった。
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