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その後、震えながらばあちゃんが話してくれた。
桜の木は寂しがり屋で、人間の姿をして、気に入った者を連れていくことがあると。
「いっぱい生えていたり、人通りの多いところはまだ大丈夫だ。だが、1本だけ、人気のないところに生えてんのは危ない。
陸也、お前は桜に気にいられた。だから絶対にそういう桜に近づくな」
ばあちゃんに忠告されて、僕は桜に近づかないよう細心の注意を払って生活していた。
なのに、ここに来て僕の足は、その寂しい桜に向かって動いている。
正確には、あの頃と変わらない美しい少女の元に。
桜が嫌いだ。もう二度と会えないであろう少女を思い出すから。
桜が嫌いだ。僕が連れていかれると、悲しむ人がいるから。
桜が嫌いだ。なのに、少女に再び会うことになったら、自分はその手を絶対に取ることを確信しているから。
あのころと同じように差し出された白い透き通るような手に僕の手を重ねると、少女は花が咲いたように笑った。
それだけで僕は、自分の中の全てが、温かく満たされるのを感じたのだった。
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