装備を売り払う

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装備を売り払う

 町に帰還。空はまだ明るい。 「食堂に行く前に、薬屋に寄って調合を依頼したい」  肉壁(にくかべ)と魔力袋から異論は出なかった。  薬屋に向かい、店主に調合を依頼する。依頼したのはデバフをかける薬を数種類と、状態異常にする薬を数種類。  支払いのために財布を開いてハッとする――金が無い。魔力袋を落札する際に全財産を使ってしまった。限界まで借金をしたばかり。借りられるあては無い。  今すぐ現金を手に入れるには――肉壁(にくかべ)と魔力袋に視線を()る。  魔力袋は寝巻きしか身につけていない。となると、肉壁(にくかべ)の装備を売るしかない――。 「魔力袋は、薬が出来上がるまでここで待っていて」  肉壁(にくかべ)の手を引き、店を出る。  行き着いた先は、防具屋の前。 「装備、全部脱いで」 「雪降ってるし……ここ、外だよ?」  雪が降る寒空の下。人通りは多い。こんな場所で脱げば、注目を集める。それは承知の上。それでも他の選択肢が無い――。 「魔力袋は何も装備してないけど、文句言ってた?」 「いいえ……言っていません」 「君は言うの?」 「いいえ。言いません」  肉壁(にくかべ)は装備を外し、地面に並べていく――。 「それも」  ブーツを指差す。 「何の効果も無い、ただの靴ですよ?」  効果なんて関係ない。現金化出来るものは、全て売らないと足りない。 「魔力袋は履いてないよ?」  肉壁(にくかべ)はブーツを脱ぎ、装備の横に置く――周りには人だかりが出来ていた。好奇の目を向けられることはわかっていた。それに対し、俺達にはとやかく言う権利は無い。嫌なら、ここで装備を外さなければ良いだけのこと。  肉壁(にくかべ)が言った通り。本来、ただの靴は(かね)にならないし、価値は無い――。  そんなことはわかっている。が、俺はブーツを指差し、即興オークションを始める。注意されたら終了、短時間で済ませなければならない。 「美女の脱ぎたてブーツ! 欲しい方は希望額をどうぞ!」  人だかりを構成している人々は、たった今ここで肉壁(にくかべ)が脱いでいた光景を一部始終見ていた。  入札する層は、この靴に防具としての価値を求めていない。競り合いの結果、当面の食事には困らない程の高値で落札された。  まだ注意されていない。眼前に客が居るのに、靴だけで終えるのは惜しい――肉壁(にくかべ)が履いている靴下を指差す。 「続いては今履いている靴下! 脱がす権利付き!」  競争率が高く、靴の五倍の金額で落札された。  肉壁(にくかべ)に目を()る。競売に掛けられる物は、今ので最後だ。シャツを着ているけれど、流石に脱がさせるわけにはいかない――肉壁(にくかべ)を外に立たせたまま、肉壁(にくかべ)が脱いだ装備一式を防具屋へ持ち込む。  査定中。外から肉壁(にくかべ)の声が聞こえる。 「殴られ屋を始めます。私をダウンさせたら、今私が着用しているもの、全て差し上げます。制限時間は三分。彼が店から出てきたら終了です……では、参加費を入札してください」  窓越しに肉壁(にくかべ)の様子を覗く。近くに落ちていた箱を拾い、足元に置いている。流石に参加する奴は居ないだろうと思い、目を離す。  数分後、査定が終了した。肉壁(にくかべ)の装備は美品だったから、想定していたよりも高く買い取ってもらえた。買取額に不満は無い。  店を出ると、肉壁(にくかべ)の周囲に群がっていた男たちが散っていく――チラッとしか見えていないが、肉壁(にくかべ)が大勢から暴行を受けていたように見えた。 「お待たせ」  肉壁(にくかべ)に近付くと、先程までは無かった、痛々しい傷や痣が多数ある。肉壁(にくかべ)の足元付近には肉壁(にくかべ)が動いた形跡は無い。肉壁(にくかべ)はふらついてはいるが、一歩も動かなかったようだ。  肉壁(にくかべ)は無言で、現金が入っている箱を手渡してきた。  肉壁(にくかべ)の装備を剥ぎ取り、売り払ったことに、多少の後ろめたさは感じる――箱を受け取った際、労いの言葉を伝えたかわからないほどには動揺している。  薬屋に向かう道中、無意識に歩幅が大きくなる。きっと肉壁(にくかべ)との距離は、徐々に離れていっている。肉壁(にくかべ)が気にはなるけれど、振り返ることは出来なかった。
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