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夜
「龍二はどうした?」
仕事から帰って来たお父さんがあたしの作ったご飯を食べながら聞いてきた。
「なんか情緒不安定みたいだよ?」
あたしの返事にお父さんが少し険しい顔になる。
「なにかあったのか?」
「今なぜか彼女を作ってなくて、エッチしてないからイライラしてるんじゃない?
お兄ちゃんは彼女がいない時も彼女が出来てからもあんな風になったことなんてないのに、兄弟なのに違いすぎない?
兄妹とはいえ、あんな風になってる龍二の対応するの、毎回結構大変なんだけど。」
そんなことまでお父さんにチクると、お父さんは苦笑いをしてきた。
「龍二、彼女できてないのか・・・。」
「彼女がいない日なんてないんじゃないかってくらいだったのにね?」
お父さんもお兄ちゃんも全く違うタイプなのに龍二だけが謎にあんな感じで。
死んでしまったお母さんなんて女神のようだったと聞いているのに、龍二だけは生まれた時から”ヤバい赤ちゃん“だったらしい。
「あんなにイライラされるとこっちが迷惑なんだけど〜・・・。」
「今回はそこまで迷惑なことがあったのか?」
お父さんから真剣な顔で聞かれ、これには言葉が詰まってしまう。
「・・・あたしのことが大嫌いって叫んで家から出て行ったよ。」
それだけは伝えるとお父さんはやっぱり苦笑いをした。
「そうか・・・。
でも、龍二は杏のことが妹として大好きだから。
昔から龍二は龍二で心配になる子どもだったけど、杏は杏で別の心配があるような゙子どもで。
昔から龍二は杏のことを守ってくれてるだろ?
あんなの、大好きじゃなきゃ出来ないことだからな?」
「それは分かってるよ・・・。
分かってるから、あたしだって龍二の情緒不安定に出来るだけ付き合いたいとは思ってるし・・・。
思ってるけどさぁ〜・・・」
やっぱり、まさか龍二にエッチなことをされたとは言えず。
龍二のせいであたしまでお父さんに嘘をつかなきゃいけなくなってしまった。
「杏、もしもなにかあったら悩まずすぐにお父さんかお兄ちゃんに言うんだよ?」
お父さんの優しい言葉に、大学生になってからいなくなってしまったお兄ちゃんの顔も思い出しながら、あたしはテーブルの下で手をギュッとした・・・。
「うん、すぐ言う。」
こんなこと、やっぱりお兄ちゃんにも言えないと思いながら。
お父さんの娘であるあたしに、お兄ちゃんの妹でもあるあたしに、龍二がこんなことをしたと知られたら龍二が2人からめちゃくちゃ怒られまくることは分かるから、それはそれで可哀想だと思って。
あたしだって龍二のことは家族として大好きだから、それは当たり前のようにそう思う。
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