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そんな身体でヤりたくないわけないっ!
Aランク冒険者のスルトとパーティを同じくするイライザはダンジョンへ潜っていた。いつもなら時折他のパーティと遭遇することもあるが、今回はない。僅かな緊張感と共に、薄暗い中を光を灯しながら確実に前へ進む。
一つのパーティのみでの攻略であることには理由があった。
ある日鉱山都市【カンナギ】の近くに突如姿を現した『塔』のダンジョンは、冒険者ギルドが手配した斥候特化のパーティによって、淫魔による関与があることが判明した。
特徴としては性的な罠や誘惑が数多く仕掛けられており、複数パーティや、パーティ人数の多いクランなどが入り込むと痴情のもつれによる内部分裂ののち、血みどろの争いに発展することがあげられる。
モンスターはスライムやゴブリンをはじめ、その生態がよく知られている低級モンスターが殆どだが、その悉くが人間の肉を食らい、また己の種の子種や胞子で孕ませてくるタイプであるため新人冒険者には荷が重い。かといってベテラン冒険者は基本的に複数人で一つのパーティを組んでおり、そのメンバーは長い間固定であることが殆ど。長年培ってきた信頼関係を崩さないことも彼らにとっては重要事項であり、淫魔が絡むダンジョンには少数精鋭であること――特に単身のベテラン冒険者を複数人、もしくは全てを理解した上で攻略に臨めるパーティ一つのみが望ましいとされた。
そしてその条件をクリアするのが、スルトとイライザだけだったのだった。
「体感だともうすぐだな。イライザ、体力は持ちそうか?」
「はい。とは言え、こんなに階段を上らされるとは……」
片手剣を腰に佩き、軽装ながらいかにも剣士然としたスルトが相棒を気遣う。気丈に返事をしたイライザもシンプルなローブ姿で杖をつき、いかにも魔術師然とした姿で、少し上がった息を整えた。
現れた『塔』は外から見ると細く、20階ほどのように見えた。しかし見た目に騙されてはいけないのがダンジョンだ。中の空間は歪められ、大体は迷路状になっていて体感的にも、面積的にも広々としている。
今回も例に漏れずで、戦闘面の殆ど全てを担うスルトと、それ以外を行うイライザはかなり手こずっていた。
体力は勿論、気力を削られるため、セーフエリアで結界を張って何度も休憩と睡眠をとった程だ。潜ってから二日は経っている。
「スペルスクロール(魔法が書かれた巻物。誰でも一回だけ記された魔法が使える)の準備はどうだ?」
「今回は『塔』を上るということなので、脱出用のものを少し余裕をもって用意してます。あとはいつも通り回復系と……魅了解除系ですね。これは付与魔術では補えないので。こっちも強めのものを5つずつ」
「悪くないな。俺も緊急用の回復分は持ってるし、間に合いそうだ」
スルトは階段を上りきると辺りを窺った。不気味なほどに静まりかえった通路は真っ直ぐに伸び続け、二人を出迎えているようだった。
イライザはスルトの後ろで息を整えて、杖を振った。スルトの身体から疲労感が薄くなり、気力が隅々まで満ちる。イライザは一級の付与魔術師(バッファー)で、特に単体の身体能力を向上させることを得意としていた。
スルトは静かに抜刀し、抜き身の剣を右手に握った状態でイライザの前を迷いなく歩く。
淫魔の影響を受けたダンジョンの最奥ボスが淫魔とは限らない。ダンジョンは高位モンスターが効率よく人間などの生命体をおびき寄せ、屍や生命力を食らい、ダンジョンコアを通して己の糧にしている説が最も有力視されているからだ。大体は巨体のモンスターであることが多く、それを倒して、隠された『コア』と呼ばれる立方体の光る鉱石を破壊する。そこで漸くダンジョンを踏破したことになる。
砕けたコアは魔力を通す特殊な宝石として重宝され、踏破されたダンジョンは安全性が極めて高くなる一方、資源としてのモンスターは刈り尽くせば終わるため、敢えてコアを壊されないダンジョンもある。
今回は淫魔の影響が強すぎるため、コアは壊す以外なかった。
「スルトさん、間違いなくこの先です」
「ああ」
通路の終わり。厳めしい柱の陰に隠れつつ、進行方向に静まりかえった広い空間を感じて、二人は顔を見合わせた。
「いつも通りに」
「はい」
スルトが音もなく暗闇の中に身体を浸した。遅れてイライザが慎重に広間へ歩を進め、杖を振る。
杖の先から放たれた光によって闇が散らされ、空間の全貌が露わになった。
生い茂る蔓と甘い香り。もはや樹木なのではと思うほど太い蔓が一箇所だけ絡み合い、まるで何かを守るように膨らんでいた。
「恐らくアルラウネです!」
「はっ!」
蠢く蔓をスルトが素早く切り落とし、跳躍する。イライザはその動きに合わせて再度杖を振った。
スルトの振りかざした剣が赤く光り、深々と蔓に突き刺さる。そこから煙が立ち上り、あっという間に蔓は焦げ、燃え始めた。
「――~~!!!! ~~~~~~~~!!!!」
まるで死者を出すこともあるというマンドラゴラの絶叫のような悲鳴が上がり、イライザはその音圧に思わず耳を塞ぐ。瞬間、蔓が素早く彼女の身体を拘束した。
「くっ、ぅう……!」
「イライザ!」
ぎちぎちと身体を圧迫され、苦しさにイライザが呻いた。スルトもまた両足に蔓が絡みついていたが、イライザの声を聞いて、突き刺した剣に力を込めた。
「ふん!」
握りしめ、そのまま思い切り上へ剣を振り上げる。深々と突き刺さっていたはずの刃はしゅうしゅうと音を立てながら、スルトの力のままに蔓を切り裂いた。
「ギャアァアアァァァァアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!」
蔓の隙間からつんざくような悲鳴が飛び出てくる。スルトはそこに人の女を模した身体を見て取ると、さっと足下の蔓を切って墓へ飛び込んだ。
「スルト! 胸ではなく下腹部を! ぐっ、」
逆さにつるされ、ローブがめくれて露わになったイライザの足に蔓が這い、棘が刺さる。損傷した部分を補うために血液を啜り、そこから魔力を奪ってモンスターの『生命』の補填をするための反応だ。イライザは痛みに顔を歪めたが、性的に甚振る余裕がないことの証左でもある。
不自然な蔓の膨らみに飛び込んだスルト。続く絶叫。イライザが勝利を確信するのと、蔓から力がなくなるのは同時だった。
「わ、わわっ」
居心地の悪い浮遊感にイライザの四肢が本能のままもがいた。このまま蔓と共に床にたたきつけられるのを想像して、心臓がひゅっと冷える。
そこへ戻ってきたスルトが剣を叩きつけた。巻き付いた蔓が何の抵抗もなく一太刀で分かたれ、危なげもなくイライザの身体を抱き留める。そのまま難なく着地し、萎れ、消えていく蔓の合間に見え始めた床へ下ろした。
「イライザ、すまない。大丈夫か?」
「はっはっ……は、はい……」
イライザの身体能力は高くない。寧ろ魔術を主とする冒険者と比べても平均よりも低い。自身の付与魔術でもその差は埋められない。それが一級の腕を持ちながら彼女が他のパーティに誘われない理由だ。
「すみません、スルトさん」
「謝ることはない。お互い承知の上だろ」
「そうですが……。あ、じゃあ、ありがとうございます」
「……ん。俺も毎度君のフォローに助けられてる。今回もありがとう」
イライザの感謝にスルトは満足そうに頷き、剣を一度鞘に収めるとそのままイライザを横抱きにした。
「ふぇ?!」
「そんな傷で自分で立ってたら出血が余計に酷くなるだろ。良いからしっかり掴まってろ」
「で、ででででもでもでもでも、つ、つつ杖が」
「それはなんとかしてくれ」
スルトの言葉のまま腕を回したイライザだったが、その表紙にごつ、とスルトの後頭部に杖の先が当たった。痛くはないが、余計に動揺が酷くなるイライザに苦笑を零しつつ、スルトはコアへ向かって歩き出した。
「よっ……と。随分でかいな……ギルドが速やかに壊せって言うのも理解できる」
床に転がったコア。スルトはイライザをそっと床へ下ろすと、コアを手に取って眺めた。スルトの掌にかろうじて乗せられる程度のそれをさっと上に投げると、落ちてくるのにあわせて剣を抜き、一閃で終わらせる。
ガラスが割れるような音と共にコアが壊れ、床に転がった。静寂が戻り、漸く二人は緊張を解いた。
では脱出ののち手当を、と二人が考えたのは同時だったが、突如地響きと共に天井が崩れ始める。いびつに歪められた仮初めの天井の外側に、青空が広がった。
「なっ、くそ! イライザ!」
「スペルスクロール・エスケイプ!」
スルトがイライザを抱き寄せ、イライザはマジックインベントリ(魔法によって特殊な空間へ保存したアイテムの一覧表。術者のみがそれを閲覧し、選ぶことで直ぐに取り出すことができる)から巻物を取り出すと同時に魔力を流して叫んだ。
瞼の裏まで仄かに明るくなるような光が二人を包む。揺れる床と崩れ落ちてくる天井の音や距離感覚が遠くなり、二人は互いに身を寄せあって少しの間息を詰めた。
きぃん、と耳鳴りにも似た音が止み、肌を風が撫でる。
その感触と、今までいたダンジョン内部とは明らかに異なる空気にイライザは目を開けた。
「え……」
目の前にはスルトがいた。当然だ。抱き合うようにして脱出したのだから、近くに彼がいるのはおかしくない。
イライザが驚愕したのは、自分たちがいる場所だった。
「こっ、ここ……木の、上……?!」
二人は大樹の太い幹の上、最初に太く枝分かれをする場所に折り重なるようにして倒れていた。二人が寝そべっても充分過ぎるほど広いその場所は地上から随分と高い。遠くには鉱山都市カンナギが見え、位置的に先ほどまでダンジョンがあったであろう同じ場所にいるのだと分かった。
二人が着地した大樹の幹には蔓が絡まり、二人がいる空間も、複数の植物が垂れ下がるように囲っており、日の光は届くが少しばかり薄暗い。もう何百年と前からここに根ざしているような貫禄があった。
「どうやらそうらしいな……、ん? イライザ、傷が癒えてる」
イライザがスルトの上から退き、四つん這いで樹を調べ始めると、スルトがイライザの肌に血の跡や傷がないことに気がついた。
「……これは恐らくトレントの樹ですね。普通の樹とは明らかに異なります。物凄く豊かな魔力を感じますし……。多分、私の傷が癒えたのもこの樹が生えてくる際の、成長促進の魔力にあてられたものかと」
「ああ、悪い感じがしないのはそれでか」
「とは言え、魔力の相性がよすぎると樹の中に取り込まれることがありますから……そうならなくて何よりでした」
トレントは精霊が樹に宿った姿で、知性を持つ。モンスターだとする地域もあるが、イライザが知る限りでは森を荒らさなければ対立することはなかったはずだ。それどころか、周囲の環境をトレントにとって居心地のよいものにするという性質のため、肥沃な土地や動植物の生態系が非常に豊かになるケースがよく知られている。
「しかし……なんで急にトレントが?」
「恐らくダンジョンコアがトレントの餌になったからかと……」
「……ってことはコアは持ち帰れないのか?!」
「残念ながら」
イライザの言葉にスルトは目に見えて落ち込んだ。破壊されたコアはダンジョンの踏破の証明として最もわかりやすく、大切なアイテムである。それがないとなると、踏破の証明は遅くなり、報酬を得られるまでに数日はかかるだろう。
「ギルドに交渉する余地はあると思うか?」
「残念ながら……」
「マジかよ……」
大樹に身体を預け、仰向けに大の字になって落胆するスルトに、イライザはどう言葉を掛けるか迷った。慰めようにも、同じパーティである以上報酬も同じく下がるのだからイライザも落ち込む立場だ。能力の性質上、イライザが装備品にかけるコストが低いというのがスルトとは異なる部分だろうか。しかしそれもイライザの付与魔術によってかなり摩耗する速度は落ちている。
しかし――
「え、あ、わ、」
「っ、イライザ!」
スルトの近くへ戻ろうとよろよろと立ち上がった瞬間、イライザは腰が抜けたようにふらついてしまった。足で踏ん張ることができず、身体が力なく外へ向かって倒れていく。
彼女の様子に驚いたスルトは、彼女の手をかろうじて掴むことに成功すると、そのまま自分の方へ引き寄せて身体で受け止めた。尻餅をつきつつも、最初に二人がいた位置へと引き戻すことに成功する。
「こ、こわ、こわか、」
スルトの腕の中でイライザが涙目になって震える。間一髪助けられたことにスルトは胸をなで下ろしながらも、突然どうしたのかと彼女の顔色を窺った。
「あ、ありがとう、スルト」
「いや、いい。それよりも大丈夫か? 血が流れすぎたワケじゃなさそうだが……」
「……あ、っ」
イライザの身体を心配するスルトの視線に、イライザは心当たりを探ったが、突如顔を赤らめるともじもじとし始めた。
「え、えっと……言いにくい、の、ですが……」
「ああ」
「……スルトも知っているかと思いますが、その、過剰な強化魔法や治癒魔法を受けると……『生命エネルギー』が溢れて、性的な衝動が強くなるじゃないですか……」
「ああ。……まさか?」
「トレントの魔力……かなり過剰だったみたいです……」
端的に言うと性的興奮状態にある、という説明に、スルトは納得した。過ぎたエネルギーは毒なのだ。余剰分が『衝動』へ変換されてしまう。ベテランほどそれを性欲として扱ったり、訓練や修練への意欲に転換することが上手くなる。術者もまた修練を積むことで適切な力加減を覚えていく。回復する方もされる方も、実力が拮抗していないと事故に繋がりかねないのだ。
「……?」
不意に自分の太ももに違和感を覚え、イライザは身体を強張らせた。
むく、と跳ねるように太ももを刺激するのはスルトの男たる部分で、彼ははっきりと兆していた。
少し顔を赤らめたスルトがぎこちなくイライザから身体を離し、距離を取ろうとする。だが、いくら大樹といえど離れられる距離には限界があり、先ほどのイライザのふらつきもあって、結局まともに離れることはできず、殆ど意味のない努力だった。
スルトは照れのためか顔を手で隠しながら答える。
「……仕方ないだろ、ボス戦前の君の付与魔術はいつも通り少し強めだったし、君の……そう言う状況でここまで密着したら」
「う、ぁう、いえ、それはその通りで、」
魔法云々の話がなくとも、命のやりとりをする戦いの後、本能を刺激されて肉欲が膨らむことは広く知られている。勿論イライザも知っているが、今までスルトがこんなにもあからさまに反応しているところは一度も見たことがなかった。イライザの付与魔術はスルトの言うように大体ボスに向けて強めに掛けられているが、スルトは街に戻るまでは緊張を保っており、その後に色街へ足を向けるため自制心が強い男だとずっと思っていた。
スルトにも欲があるということを、まさに肌で感じたイライザは顔を赤らめるのを止められなかった。
「それに!」
「わっ」
「……イライザ、君、なんでそんな……いつも、あそこまで薄着なのか?」
もはや顔を赤くしているのはスルトも同じだった。アルラウネの蔓に絡め取られた際に、ローブがめくれたことだろう。イライザは言葉に詰まった。
スルトは言葉を選んだが、イライザのローブの下は無防備な下着姿だった。
イライザ自身は補助能力こそ極めて高いが、攻撃で役に立てることがない。戦闘から離脱するときも足は遅く、殆どの場面で足手まといになる。今そうなっていないのは、スルトが戦闘面で恐ろしいほど強いからだ。
下手に装備を重くすれば更に『荷物』になってしまうことは明らかで、イライザは様々な耐性のついたローブ以外に、殆ど服というものを持たず、着てもいなかった。
無論、命を預ける相手だ。装備の話は予めしていたが、まさか彼女がそこまで度外視しているとは思っていなかったスルトは度肝を抜かれていた。抱き留めた時の柔らかさ。目に飛び込んできた白くまろい肌。ぎちぎちに蔓に締め上げられていたせいで、はっきりと浮き上がっていた豊満で妖美なイライザの身体。
二人がパーティを組んで3年。
お互い元々所属していたパーティでの性交渉や、性的経験の見栄の張り合いからくる痴情のもつれの末に疎まれ、そこを抜けた経験がある。スルトは優秀なはずの優れた身体能力でやっかみを受け、イライザはその能力の極端さを煩わしく思われたためだ。
故に、お互いがお互いについて『性的なやりとりは御法度』だと思い、お互いを性的発散の対象にしないという取り決めをしているほどだった。
現にスルトはイライザの付与魔術による影響を色街で発散していた。イライザ自身がはっきりとスルトから色街へ行くと聞いたことはないし、「飲みに言ってくる」程度の言葉しか聞いたことがないが、そう言った話はどこからともなく入ってくるものだ。
「あんな状態なのを知ってしまったら、反応もする……」
「でっでも女体系モンスターには反応してないじゃないですか?」
「モンスターなんだからそりゃそうだろ! 錯乱でもしてない限り、そんな死にに行くようなことするか!」
「ですよねっ」
イライザは徐々に興奮が膨れ上がっていくのを感じた。
今は装備に隠れているが、スルトの肉体は鍛え上げられており、宿にいる間や手当をするときの黒くぴったりと身体にフィットするアンダーウェア姿が放つ色気は相当なものだ。胸筋、腹筋が作り出す凹凸。着痩せするのか普段は感じることのない腕の太さ。加えて顔もよく、切れ長の目は涼しげで、冷静な普段の姿ばかり見ているイライザは、スルトが自分に手を出してこないか考えながら何度も自分で自分を慰めたことがあるほどだ。
イライザは元々性的なことに興味があり、欲を燻らせる自分を見つけ、暴かれることを夢見ていた。
しかし現実にそういった状況に陥るのは悪手でしかない。痛いのも嫌だし、行為は楽しみたいがそれに付随する人間関係には疲れていた。そしてなにより、誰かがその行為のために不幸になるのも望んでいなかった。
イライザは自分の指以外を知らないままだった。そしてスルトとパーティを組む際に結んだ約束事のために、彼を誘うこともできずにいた。
「はあ……イライザ」
「は、はい」
「君、一人でするときかなり長いだろ」
「はい?!」
スルトを受け入れて、気持ちよくなってみたい――。
不埒な考えに支配されつつあったイライザは、スルトの発言で思わず身体に力を込めた。縮こまるように背を丸めて、足を曲げる。その所為でスルトの最も敏感になっている場所を膝で擦ってしまい、珍しくびくっと身体をゆらしたスルトに更に狼狽えた。
「ごめんなさいごめんなさい! わっ、わざとじゃ……わざとじゃないんですぅうう~~……!」
「……。いい、分かってる」
「ううう……! ……あの、はっ話を戻しますけど、スルト、どうしてその、知ってるんです、か?」
「前に色街に出て行った後、宿に帰ってきたら終わってなくて、ずっと君の部屋から声が……。そのうち終わるだろうと思ってたけど延々と聞こえてくるから、またヤりたくなる前に部屋を出て……しょうがないから酒を飲みに行ったことが」
「ごっ……!!!!! ……ごめん……なさい……」
イライザの言葉尻がすぼんでいく。恥ずかしさだけで死んでしまいそうな彼女の様子に、スルトは宥めるように彼女の背を撫でた。
「それは別にいいんだけど。……本題はそうじゃなくて……。あのさ、君をパーティに誘うときに『お互いの身体は求めない』って約束したけど、あれ、破っても良いか?」
「え……? どういう……?」
「イライザの付与魔術にはすごく助かってる。稼ぎも安定したし、パーティメンバーの女に粉掛けられて雰囲気が最悪になることも全く無くて、すごく気楽で感謝してもしきれない。装備品も手入れをしていれば買い換えることも少なくなった。たださ……その、そこまで疲れることがなくなったから『こういう』風になって、娼館に落とす金が増えちゃって、さ」
「あっ」
スルトが腰をゆらすと、彼の熱がイライザの足を擦った。服や下着越しとは言え、イライザが思わず漏らしてしまった声は嬌声以外の何物でもなく、スルトの目が据わる。
「ここから街まで4時間。太陽の位置から見て今から帰るとなると娼館が開く夜の鐘が鳴るまで2時間は待つことになる。……正直、待てそうにない。今自分で抜いても多分、道中で君を襲うかも知れない」
「いっ、今は落ち着いてるじゃないですか?!」
「ここはまあ、安全そうだから。それに俺が望んで君をパーティに誘ったのに、その時の約束ごとを俺から破る提案をしてるんだ。多少理性的に話さないと」
そう言いながらもスルトの手はイライザを宥めるような手から、そっと彼女の背を支えるものに変わり、悩ましく腰を動かしながらイライザの承諾を待っていた。
イライザは混乱した。
頷くことになんの抵抗もない。そもそもこういうことになっても大丈夫という理由でこのダンジョンへやってきたのだから、寧ろ当然の流れかもしれない。ダンジョン攻略後ではあるが、そんな細々とした事情など誰が見咎めることもない。
「正直……君の身体と反応を間近で感じて、もう我慢の限界に近い」
「あぅ、う」
「君が一人でしていた時間を考えれば、俺はかなり満足させられると思うんだが」
「ス、スルト……何言ってもシたいだけのヤリチン男みたいになってます……」
「みたいじゃなくてそうなってるんだよっ! ああ、っ、もう、焦らさないでくれ、頼む返事を」
苛立ったようにスルトがイライザを抱きしめた。乱暴さはないが、イライザの胸に顔を埋め、普段の冷静さは失われている。
「君の口からそう言う言葉が出てくると、余計に興奮する」
はぁ、と熱っぽい吐息がイライザのローブへ吸い込まれ、染みこんでいく。今すぐにでも愛撫を始めてしまいそうなスルトの手を背中に感じながら、イライザは思い切って自ら腰を揺らし、スルトの陰茎に自分の鼠径部をすりつけた。
「……誰ともしたことがないんですけど、それでもよければ」
「君は俺を煽ることしかできないのか?」
恥じらいをもって頼みに応じたイライザは、彼女の言葉によって一層追い詰められたスルトから深く口づけられて目を閉じた。
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