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女には月に一度生理的な現象が起こる。月経は時として腹痛を始めとする体調不良が起こることもあり、女冒険者はその間には工夫が必要になる。中には膣圧をコントロールして経血を任意のタイミングで出せる猛者もいるが、ごく一部だ。大半の女冒険者はスライムの粘液とアルラウネの蔓でできた膣用プラグを用いるか、アラクネの糸を編んでチュパカブラの舌を丁寧に包んだナプキンをあてて活動することになる。
強い痛み止めは怪我を負った際の傷の深さまで分からなくなってしまう場合もあり推奨されておらず、生活と安全を天秤に掛けることも珍しくなかった。
イライザの場合はプラグ式生理用品があることと、普段使いできる市販薬で症状は軽くなるため、野外活動も問題はない。そもそも付与魔術師が怪我を負うのは大体が他のメンバーが倒れたときで、大抵の場合それは死に直結する。――ともかく、自身の役割にしても、相棒にしても、月経の間の諸症状についても、イライザは恵まれていた。
「イライザ、俺だ」
宿の個室で身体を拭いていると、ノックの音と共にスルトの声がした。「少し待ってください」とイライザは声を掛けてから、さっと寝間着用のローブを羽織る。
ドアを開けると、シャツ一枚にサルエルパンツ姿のスルトが立っていた。
「風呂ついでに湯桶の追加をもらってきた」
「え、っ わざわざ……ありがとうございます」
炭鉱夫の多いこの街には大衆浴場がいくつかある。近場で済ませてきたのだろう、湯上がりだというスルトの身体は、確かに湯気が立ち上っていた。イライザはありがたくそれを受け取ろうと、スルトを部屋の中へ招いた。
部屋の端にベッドと共に並べてあるテーブルへ桶を置くように頼む。スルトが中に入った湯がはねないように気をつけながらそっと桶を置くのを眺めながら、イライザはやけにゆっくりとしたその動作を笑った。
「ふふ、どう言った風の吹き回しでしょう?」
「深読みするほどの他意はない……いや、あるか。君と過ごす理由が欲しいというか」
居心地悪そうに言うスルトに、イライザは首をかしげた。湯は直に冷めてしまう。であれば、理由としては少々弱いのではないだろうか。
スルトも自覚があったのか、顔を赤らめながら頭をかいた。
「訂正する。君に触れる理由が欲しい」
「……それは……その、そう言う意味で?」
「どういう意味でも」
イライザの月経については以前から二人で情報共有し、予定を組み立てている。スルトの言わんとするところの範囲がどの程度のものなのか分かりかねたイライザは首をかしげた。
「もし……その、『したい』のであれば然るべき場所へ行って貰った方が……」
「それなんだが」
「はい」
スルトがそわそわと落ち着きがないので、イライザは椅子を勧め、自分はベッドへ腰掛けた。
こんなにも緊張しているスルトは珍しい。トレントの時は酷く動揺してしまい、スルトにリードされたことを思い起こしたイライザは、自分ができることならとスルトの話をしっかり聞いてみることにした。
スルトは椅子に座ったはいいものの、落ち着きなく手を組んで、指先を忙しなく動かしている。
「……イライザだと、その、ただ触れているだけで随分満足することに気づいてしまって」
「はぁ……」
「触り方が気に食わなければたたき出してくれて良いから、俺に君の身体を拭かせて欲しい」
ぎゅっと自分の手を祈るようにして、スルトは真っ直ぐにイライザを見た。
イライザは思っていた内容と異なることに拍子抜けした気持ちになりながら、直ぐに頷いた。
「いいですよ」
「えっ」
「ですから、構いません。自分では届かない部分もありますし……月のものが来ている間は銭湯へ行けませんが、できるだけ清潔を保ちたいですし」
「いいのか?」
「はい。お願いできますか?」
「それはこちらの台詞なんだが」
スルトはイライザがローブを脱ぎ始めるのを見て、狼狽しつつも手ぬぐいを受け取って、お湯へ浸した。
ぎゅっと絞り、手早く折りたたんで熱を逃がさないようにすると、改めてイライザを振り返った。
「イッ! ……イライザ、なんで何も身につけてないんだ……?!」
「流石に下は穿いてますっ。 だって、身体を拭いている途中だったんですよ? それに用事は直ぐに終わると思ってましたし……」
「そ、そうか」
「……言うまでもないかも知れませんけど、流石に誰彼構わずこんな姿で応対するわけではないですからね?」
身体の前を寝間着用のローブで隠しながら背中を見せていたイライザは、簡易的なコルセットもネグリジェも身につけておらず、ショーツ一枚の姿だった。彼女のそんな姿は既に何度か見たことがあるものの、スルトは欲望が兆し始める予感に慌てて手ぬぐいを彼女の背中に当てた。
「わ、まだ温かいですね」
喜色の滲むイライザの声に、理性が欲望を押し戻す。スルトもイライザの直ぐ横に腰掛け、丁寧に彼女の肌を拭いた。
「痛くないか?」
「はい。気持ちが良いです。思ったよりも炭鉱内って汚れるものですね」
「そうだな。次受けるときは重ならないといいんだが」
何度か手ぬぐいを洗って絞り、拭くのを繰り返し、イライザが頃合いを見てうなじを見せる。導かれるようにスルトの手が髪の毛の生え際へ伸び、手ぬぐいで丁寧に拭き取った。
髪の毛に入り込んでいる汚れを見て、もう一度改めて手ぬぐいを洗う。緩めに絞ると、スルトは手ぬぐいを広げてイライザの頭を包んだ。指先で頭皮を揉むように刺激し、イライザがその手に頭を預ける。彼女の口元に笑みが乗っているのが見えて、スルトも顔を綻ばせた。――その向こうにイライザの胸があるということは、考えないようにして。
「でも、殆ど持ち回りのようなものですし、他のパーティや依頼の都合もありますから。清めのスペルスクロールがもっと安価になれば……うーん、でも、やっぱり街に戻れるならこうやって身体を拭くのも気持ちいいですから、やっぱりそこまで考えなくてもいい気がします」
「ん。イライザがそれでいいならそうしよう」
「はい」
イライザが頭を戻す。スルトが手ぬぐいを湯涌に戻すと、イライザはおもむろにスルトにもたれかかった。
「うわ、どうした?」
「……当たってますよ、スルト」
イライザの指先がスルトの鼠径部へ伸び、そっと芯を持った場所へ触れる。そのまま優しく揉みしだかれて、スルトの欲望はあっという間に膨らんだ。
「い、イライザ」
「最後まではできませんけど、手か口ならできます」
「?!」
「……それとも、スルトは胸の方が好きですか?」
イライザの手がローブから離れ、彼女の胸を覆っていたローブは力なくシーツの上に落ちた。
スルトの喉が鳴り、ぴくんと芯が動く。
「む、胸は……もう痛くないのか?」
「はい。張るのは生理前なので。……ですから、私のここも触ってください」
願ってもない言葉に、スルトはふっくらとした胸にゆっくり手を伸ばすことで応えた。
「……君も、そのつもりで?」
「『も』ってことは……スルトはそうだったんですか?」
「あ」
「ふふ……スルトに拭いてもらう話の時には少しだけ期待してました」
墓穴を掘るスルトにも笑うイライザに、スルトは彼女から手を放さないまま恥ずかしそうに目を逸らした。
「最初から素直になるべきだったかな……」
「言いにくかったんでしょう?」
「まあ……流石に気軽には提案できないし、先に言ったことも嘘じゃない。……ほ、本当だぞ? 気持ちと身体の反応が揃ってないだけで」
「嘘をつかれたとは思ってないですよ。スルトの気遣いを無下にしたのは私ですから……ね? 気にしないでください」
イライザが胸を差し出すようにしてスルトの指へ押しつける。
二人の目線が絡み合い、ぎし、とベッドを鳴らした。
「なら……君が胸でよくなってから、たのむ」
「んっ い、いんですか……それで……?」
「ああ。君が乱れているのを見ると……すごく、興奮して、……手が止まらなくなる。ずっとそうしていたいくらいに気持ちがいい」
スルトが深く息をした。彼の身体が熱く、昂ぶっているのがイライザにも伝わってくる。
スルトの言葉は、人によっては「すき」という言葉に置き換えられるのだろうとイライザはルカに言われたことを思い浮かべた。しかし、スルトの口からそれに類する言葉が零れることはない。
だが、それはイライザとて同じことだ。名もない関係でいることに不自由さもない。
「私も……スルトに触られて、意地悪を言われるのが、好きで……。たくさんそうして欲しい……です」
イライザはスルトの指先が胸の先端を擦って、きゅっと摘ままれるのと同時に嬌声を上げ、目を閉じた。
――だから今はこの身体に燻る劣情を煽り合って、終わったら確認しよう。
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