千年桜と山おらび

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千年桜と山おらび

 今年も、桜が咲いてしまった。忌々しい千年桜が。千年桜の美しさにつられ、人が来る。そして私は、その人達を――。 「今年も、綺麗な桜が咲いたなぁ。去年は忙しくて来れなかったけど、今年はゆっくり楽しめそうだ」 「しかも、千年桜の下で花見ができるなんて、最高だよ」  人間達の声が、遠くから聞こえる。私の噂はそれなりに広まってるはずだ。なのに、何故今年も人が来るのだろう?  今まで聞こえてきた人間達の言葉を繋ぎ合わせれば、桜の名所はこの近くにたくさんある。何故、険しい道のりを越え、千年桜を見に来るのだろう?  時が流れ、私の噂が途絶え、道が舗装されたと言うのだろうか?  それとも、千年桜に、人を引き付ける力があるのだろうか? 「うっわぁ、すっごい綺麗! インスタ映え間違いなし!」 「お前、まーたインスタかよ」 「いいじゃん、別に」  あぁ、愚かな人間がまた来てしまった……。  彼らは私を見つけるだろう。 「んじゃ、この辺にレジャーシート敷くか」 「オッケー、手伝うよ」  できれば人間から逃げたいが、千年桜のせいで、私はこの場から動くことができない。  私は、私のことを思い出さない、もしくは人間達が知らないことを祈る。 「そういえば、山おらびって知ってるか?」  人間の男は、お決まりのように私の話をする。 「なにそれ?」 「ヤイヤイ、って声をかけると、声を返してくれるんだって」 「へぇ、楽しそう。やってみよう」 「ヤイヤイ!」  ふたりの人間は、あろうことか、私の近くでその言葉を口にした。 「ヤイヤイ!」  私は仕方なく言葉を返す。 「意外と近い!」 「この木の裏?」  ふたりは何度も掛け声を発しながら、私の声を頼りに近づいてくる。 「いやぁ! 化け物!」 「うっわ、気持ち悪い!」  ふたりは、私を見つけてしまった。 「いやぁ! 化け物! うっわ、気持ち悪い!」  ふたりの言葉を繰り返しながら、私の腕は、彼らをつかむ。  悲鳴をあげるふたりを、むしゃむしゃと食べる。悲鳴だけ、繰り返さずに済むのは何故だろうか?  地面に敷き詰められた桜の花びらと私の見にくい手は、血に染まる。  一体、何百年もこうしているのだろう?  私は、人間だったときのことを思い出した。
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