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身支度を整え、朝食の準備をしている母親を見つけると、春麗は駆け寄りいきなり話し出した。
「母上、聞いて! 父さまの夢を見たの!」
「春麗? なあに? 朝のあいさつもしないで……」
「あ、ごめんなさい……」
思ったより切羽詰まっていたようで、春麗は息を整えると改めて切り出した。
「母上、おはようございます。それで──」
「はい、おはよう。父様の夢を見たって話ね。朝食を取りながらでいいかしら?」
母親は粥の入った器を手に、卓の方へと歩いていく。春麗は「はい」と頷くと自分も食卓についた。
朝食を食べながら、春麗は今朝がた見た夢の話をした。父親が、近く大きな戦が起きると言ったこと。そして、夢なのに頭を撫でられた感覚があったこと……。
母親は、春麗の話を聞き終わると「はあ」と溜め息をついた。
「やっぱり、あなたにも夢幻視の力が備わっていたのね」
「夢幻視?」
母親は頷くと話し始めた。
「私の一族は花夢羅と呼ばれていて、巫術を得意とする一族よ。その力は、女だけに受け継がれていて、夢という形で死者と会話をすることが出来る『夢幻視』の力を備えているの」
「……」
花夢羅も夢幻視も初めて聞く言葉だ。これまで色んな書物を読んできたが、そんな記述はどこにもなかった。
「不思議に思ってるわね? したかたないわ。私達の一族は、北の異民族。それも、特異な力を持っているから、人が踏み込まない山奥に隠れ住んでいるのよ」
春麗は自分の中に異民族の血が流れていることに衝撃を受けた。北の異民族は野蛮な種族だと聞いている。二人がどういう経緯で知り合ったのかは分からないが、母親からはそんな印象を受けた事はなかった。
「春麗」
「は、はい!」
母親に呼ばれ、春麗は顔を上げた。
「父様は、あなたが大きな戦に関わると言ったのね?」
「はい」
「なら、早く自分の言葉で答えを出しなさい」
そうだ。今は余計な事を考えている時ではない。
『なぜ、世を変えなくてはいけないのか?』
その答えを見付けなくてはいけないのだ。
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