1・失意の花

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 その夜、春麗は不思議な夢を見た。死んだ父親が夢に出てきたのだが、今まで見た夢とは全然違ったのだ。  本当にそこにいるような、懐かしい感覚。  夢の中の父親は春麗に向かって言った。 『春麗。近く、大きな戦が起きる。それは、これからの大陸全土に関わる戦だ』 『そうなのですか?』  父親は頷き、さらに続けた。 『お前はいずれ、その戦に関わる事になるだろう。お前の母親は反対するかもしれんがな』  そう言って、少し苦笑いする。まるで、夕食後の会話を聞いていたような態度だ。 『母上は、父さまの言葉を自分の言葉で言えないうちは駄目だと……』 『そうだな。だからこそ、お前はお前の言葉をもって、あれを説得せねばならん』 『はい……』  少し気落ちしたように返事をすると、父親は笑って春麗に手を伸ばした。ふわりと頭に手が置かれた感覚。これは夢だと分かっているのに、触れられた感覚がする。 『父さま?』  まさか、死んだと思ったのは夢で、本当は生きているのではないだろうか?  そんな思いが過った時、父親の姿が一瞬揺らめいた。そして、闇に溶けるようにすっと消えていく。 「父さま!」  春麗は寝台の上で身を起こした。窓の隙間から差す光に、朝が来たことが分かる。 「夢?」  部屋を見回してみるが、当然ながら父親の姿はない。だが、頭に触れると、さっきまで父親に撫でられていた感覚が残っていた。 「夢……じゃない?」  春麗には何となく確信があった。なぜかは分からないがそう思えてならなかった。
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