1・失意の花

5/10

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 それからしばらくして、董卓が討たれたという報せを聞いた。なんでも、義理の息子だった呂布(りょふ)という男に裏切られたらしい。  呂布は驚異的な武を持つ人物で、その強さから『鬼神』と恐れられているという。董卓を討った後はどこかへ逃亡したというが、その影に女の存在があったとも噂されていた。 「なんにしても、これで少しは良くなるかもしれないな」  誰かがそんな事を言った。みんな笑顔で喜んでいるようだ。 「父さま……」  春麗は、父親が死に際に残した言葉を思い返していた。 『世が乱れているから、人心も乱れる。世が正されれば、人心も正される』 「董卓がいなくなって、みんな喜んでる。でも、また董卓みたいな人が悪いことをすれば……」  この笑顔も見られなくなる。そればかりか、あの賊のようになってしまうのだろうか?  董卓が討たれたとはいえ、まだ世が正されたとは言えない。自分がするべき事は何だろうか?  春麗は村人の笑い声を聞きながら、一人思いを巡らせていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加