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家に着くと、戸口の前で母親が村長と話していた。春麗の姿を見ると村長は人の良さそうな笑みを見せ、歩み寄って話しかけた。
「春麗、良い話を持ってきたぞ」
「良い話?」
春麗が首を傾げると、母親は村長の話を引き継いだ。
「隣村の人が嫁を探しているそうなのよ。しかもその人、許昌の都で行商をしている人なんですって」
「ちょ、ちょっと待って母上!」
春麗は、嬉しそうに話を進める母親を制した。
「嫁ってどういうこと? 私、まだ嫁にいく気なんて──」
「何を言ってるの。あなたはもう十五になるのよ? いつまでも書物にかじりついてばかりはいられないでしょう?」
「そうだけど……」
急な話に、春麗は戸惑っていた。
ようやくやるべき事が見えてきたという時に、嫁入りの話なんて……。
二人のやり取りを見守っていた村長が、「まあまあ」と話に割って入った。
「何も、すぐに返事をしろという訳ではない。じっくり考えてからでも良かろう?」
静かな口調に、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。けれど、春麗の答えは変わらなかった。
「村長さま。私には、まだやらねばならないことがあるのです」
「やらねばならぬこと? それは、何だね?」
「それは……」
春麗は答えるべきか迷った。まだ母親にも相談していないのに、軽はずみに言うべきでは無いと思ったのだ。
黙り込んでしまった春麗に不思議そうにしながらも、村長はさらに続けた。
「お主が学に通じていることをどこからか聞き付けて、『ぜひ、嫁に迎えたい』と言われてな。もちろん、『本人次第だ』とは言ってあるから、どうしてもという訳ではないのだが」
「はい……」
「まあ、お主のこれからを決める事だから、今晩一晩、ゆっくり考えれば良い」
村長はそう言うと、春麗の肩をぽんと叩き歩き去っていった。
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