1・失意の花

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 家に着くと、戸口の前で母親が村長と話していた。春麗の姿を見ると村長は人の良さそうな笑みを見せ、歩み寄って話しかけた。 「春麗、良い話を持ってきたぞ」 「良い話?」  春麗が首を傾げると、母親は村長の話を引き継いだ。 「隣村の人が嫁を探しているそうなのよ。しかもその人、許昌の都で行商をしている人なんですって」 「ちょ、ちょっと待って母上!」  春麗は、嬉しそうに話を進める母親を制した。 「嫁ってどういうこと? 私、まだ嫁にいく気なんて──」 「何を言ってるの。あなたはもう十五になるのよ? いつまでも書物にかじりついてばかりはいられないでしょう?」 「そうだけど……」  急な話に、春麗は戸惑っていた。  ようやくやるべき事が見えてきたという時に、嫁入りの話なんて……。  二人のやり取りを見守っていた村長が、「まあまあ」と話に割って入った。 「何も、すぐに返事をしろという訳ではない。じっくり考えてからでも良かろう?」  静かな口調に、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。けれど、春麗の答えは変わらなかった。 「村長さま。私には、まだやらねばならないことがあるのです」 「やらねばならぬこと? それは、何だね?」 「それは……」  春麗は答えるべきか迷った。まだ母親にも相談していないのに、軽はずみに言うべきでは無いと思ったのだ。  黙り込んでしまった春麗に不思議そうにしながらも、村長はさらに続けた。 「お主が学に通じていることをどこからか聞き付けて、『ぜひ、嫁に迎えたい』と言われてな。もちろん、『本人次第だ』とは言ってあるから、どうしてもという訳ではないのだが」 「はい……」 「まあ、お主のこれからを決める事だから、今晩一晩、ゆっくり考えれば良い」  村長はそう言うと、春麗の肩をぽんと叩き歩き去っていった。
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