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「あのね、来てもらったのは実は渡したいものがあって」
響子さんは立ちあがると、大きめの紙袋を私に手渡した。
受け取って中を見て驚いた。
そこには今日の式や披露宴で響子さんが持っていた白とピンクの花が印象的なブーケが入っていた。
「えっ、これ……??」
「このブーケ、詩織さんにもらって欲しいの」
「そんな、いいんですか?」
「もちろん!実は最初から詩織さんに渡したいって決めてたの。だからブーケトスしなかったんだよね」
響子さんと兄はよく似た表情で私に微笑みかけた。
私もブーケの意味は知っている。
幸せなお裾分け、そして次の花嫁に。
つまり、2人は私の幸せを祈ってくれているわけで、私のことを大切に思ってくれているということだ。
その気持ちがすごくすごく嬉しかった。
「ありがとうございます……!大切にしますね。本当に2人とも結婚おめでとう」
何度も告げた”おめでとう”。
それらを上回る今日一番の心のこもった”おめでとう”を私は満面の笑顔で兄夫婦に贈った。
◇◇◇
「結婚式はどうだった?」
式場の駐車場まで迎えに来てくれた千尋さんの車に乗り込むと、千尋さんが運転席から私に問いかけてきた。
その瞳にわずかに心配の色が浮かんでいることに気づく。
「すっごく素敵な式でした。……私、心から2人の幸せを祝福できました」
安心させるように私は最後の一言に力を込めて千尋さんに微笑んだ。
千尋さんは目を細め、まるで私を褒めるように頭を撫でてくれる。
それがなんだかくすぐったい。
「どうする?まっすぐ帰る?」
「あ、できれば花瓶を買いたいので、フラワーショップか雑貨屋さんにちょっと寄りたいです」
「花瓶?」
「はい、コレのために」
信号待ちで車が止まったタイミングで、紙袋の中を千尋さんに見せる。
覗き込んで「ああ、ブーケか」と納得の表情を見せた千尋さんは、悪戯っぽい顔になって、私に問いかけた。
「つまり、詩織ちゃんは花嫁になりたいってこと?俺におねだり?」
「えっ?」
思いがけないことを言われて目を丸くした。
全然そんなつもりはなかったけど、言われてみればそう捉えられても仕方ないのかもしれない。
……確か響子さんは兄に結婚を意識してもらいたくて、わざとテーブルの上に結婚情報誌を置いておいたって言ってたもんね。
「あの、ホントにそういうつもりはなくって……!ただ2人から直接プレゼントされた大切なものなので花瓶に飾りたいなぁって」
焦って否定する私の様子が面白かったのか千尋さんは声を出して笑い出した。
からかわれていたことに気づき、恥ずかしくてつい恨めしげに千尋さんを軽く睨んでしまった。
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