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「『時と猫とあなたと』読んだ?まさか亡くなってから発表されるなんてね!」
「あんな終わり方なんて中津川先生らしくないんじゃないか?」
「それも新鮮でいいじゃん!」
発売後、世間の声はさまざまだった。中津川らしくないと言う声、これはこれで好きだと言う声……
悩んだ結果、藍は結末をぼかすことにした。中津川幸治の小説ははっきりと結末が書かれて終わるものばかりだ。この小説も最初は結末をしっかり書くつもりだった。しかし、藍は自分が小説の結末を左右させるよりも、主人公のサクラ自身に結末を決めさせたいと考えたのだった。
サクラはミノルと別れた後フラフラと海辺をさまよう。そしてひざまづくと涙を流して考える。
ーー生きるか死ぬか。
海はキラキラと太陽の光を受けて明るく輝く。波はとても穏やかだ。さぁーっと優しく風がふく。サクラが顔をあげると小さなハマヒルガオの花が目に入った。とても生き生きしていてなんだかまぶしく感じる。サクラは涙をゴシゴシとふくと立ち上がって一歩一歩力強く歩いて行った。海が優しく彼女を見守っていた。
……と生きることをほのめかしながらも歩いていく先は分からない、海に入っていくのかもしれないし海から離れて街へ戻るのかもしれない、といった結末だ。
これが藍の文章、ことばだった。この先どうなるかなんて誰も分からない、読者がいろんな感想を持ってほしいと思ったのだった。
紅葉と話し合って藍は、自分のことは公表しないと決めた。中津川幸治ほどの大先生の最期の傑作が人の手によって書かれたなんて、読者からしたらショックだろうと思ったのだ。もみじは納得いかなかったが、世間的にも公表しない方が良いというのが編集長の判断でもあった。小説は中津川先生が亡くなる前に書き上げたということになった。
こうして無事、『時と猫とあなたと』の物語は完結した。
しかし思わぬことが藍たちを待っていたのだった。
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