一匹狼が忠犬になるまで

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「ふぁあ…」 あくびを噛み殺しながら学校への道を歩く。 今日の天気は雲一つない見事な快晴だ。 カラッと乾いた空気と吹き抜ける風がとても心地良くて眠たくなってしまう。 ふと、塀の上で風に毛を揺らしている猫を発見したので近付いてみる。 「お前も気持ちが良いか」 首元を撫でながらそう言うと、猫は一つあくびをしてから体を丸め、ゆっくりと目を閉じた。 うんうん、こんな日は明るいうちから寝てしまいたくなるよな。 でもこんな狭い塀の上で寝て大丈夫だろうか。寝返りうったら落ちるよな。 …まぁ大丈夫か。猫だし。 俺も今日の昼休みは屋上で寝てしまおうかな。うん、そうしよう。 本日の昼休みの予定を決めて、再び歩き出す。 そして曲がり角を曲がったその時だった。 突然目の前に何か大きなモノが飛んで来た。 「っ!」 迫ってくるそれを、よく分からないまま咄嗟に受け止める。 見てみると、制服を来た男子だった。多分高校生だ。 俺のとは違うから他校の生徒みたいだが、これはいったい… 前方に視線をやると、少し先のほうで地面に数人の男子が転がっていて、その中心に背の高い銀髪の男が1人立っていた。 あれは…喧嘩か。この男はあいつに投げ飛ばされでもしたのか? しかしこんな朝っぱらから喧嘩とは野蛮極まりない。 唖然としながら見てしまっていると、男がギンッと睨むように俺に目を向けてきた。 …今気付いたがあいつ、俺と同じ制服だ。見たことない奴だが、同じ学校なのか。俺は3年だけど同学年にはあんな奴はいないから、後輩か? 「…何を、してるんだ?」 「…チッ」 とりあえず声をかけてみると、いきなり舌打ちが飛んできた。なんて物騒な奴だ。 「…喧嘩か?こんな道端で」 「…チッ」 …驚いた。この数秒の間に2回も舌打ちをされたのは初めてだ。 「どこで喧嘩しようと勝手だが、こんなところでやるのは良くないだろう。車に轢かれるぞ」 「…チッ」 3回目… 「…とにかく、こんなところに人が転がってると迷惑だから、どこかに運ぶぞ。手伝ってくれるか」 抱えていた男子生徒を肩に担ぎながら言うと、男は俺を睨んで来た。 「…なんで俺がんなことしないといけねーんだよ。ほっときゃいいだろ。 喧嘩ふっかけて来たのはこいつらだ」 やっと舌打ち以外の言葉を発したな。いや、舌打ちは言葉じゃないか。 「絡んできたのは向こうだから自分に非はないって? こういうのは買うほうも買うほうだと思うぞ」 「うっぜぇ」 「近くに空き地があるから、こいつらそこまで運ぶの手伝ってくれ」 「………」 お願いすると、男は無言のまま地面に転がっていた奴らのうち2人の襟首を掴んで引きずり始めた。おいおい… あと2人残っているけど…仕方ないからそっちは俺が頑張って運ぼう。
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