一匹狼が忠犬になるまで

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「ぐあっ!?」 「ぅああっ!」 「!?」 覚悟を決めて目を閉じたその時、突然聞こえてきた悲鳴。 その場の全員が、何が何だか分からず辺りを見回す。 「なんだテメェは!」 次いで、蛇川と呼ばれていた男の声がした。 何だ?誰か来たのか?もしかして… 「犬童!!」 「っ!」 今の声は… 「犬童!そこにいるのか!?」 目の前の男達が振り返り、ちょうどよく視界が拓けたその先。倉庫の入口に、猫矢さんが立っていた。 そんな…どうしてここに…? 「テメェ…まさか犬童と最近つるんでるっていう奴か?」 「そうだが…お前が犬童に付きまとっているチームのボスか?」 「へっ…自分から1人で敵地に飛び込んで来るとは、ちょっとオツムが弱いんじゃねーのか?」 「あ、1人じゃないよーん」 「!?」 場に似つかわしくない暢気な声がしたと思ったら、猫矢さんの後ろから小柄な女が現れ…いや、男子の制服を着てるぞ…男なのか…? 「なんだテメェは!?」 「鼠谷、まず犬童を助けたい。こいつの相手を任せていいか?」 「もっちろん!」 「じゃあ頼んだ」 そんなやり取りをした2人は、同時にこっちへ向かって走り出した。 「!、行かせるかよ!」 蛇川が猫矢さんを止めようと向かって行く。 そこにソタニと呼ばれていた人が間に割り込み、立ち塞がった。 「キミの相手はこっち!」 「邪魔だ!どけチビ!」 「あ、チビって言ったな!許さん!」 そこで成り行きを見ていた他の奴らも、ハッとしたように武器を掲げて猫矢さんに向かう。 相手は10人以上いる。さすがにマズいと思った俺は立ち上がろうとしたが、まだ体に力が入らなかった。 しかし姿勢を低くしながら男達の中に飛び込んだ猫矢さんは、武器を持つ奴らにまったく怯む様子もなく次々に体を掴んで投げ飛ばしていく。 「うあっ!」 「うがっ」 「ぐはっ」 「!…」 初めて猫矢さんの戦うところを見た俺は、ただ衝撃を受けて言葉を失っていた。 なんだアレ…バケモノかあの人… あっという間に男達は全員床に転がってしまい、猫矢さんが俺の前に駆けて来る。 「犬童!大丈夫か!?」 「…なんで…ここに…」 「話は後だ。今は…」 言いながら、猫矢さんが蛇川達のところを振り返ったその瞬間、濁った悲鳴が倉庫に響いた。 「ぐあ゙あ゙あ゙あ゙っ!」 「!」 見ると、あの女子のような男が蛇川を床にうつ伏せで転がして背中を踏みつけながら、両手首を掴んで捩り上げていた。 「あれー?キミってボスじゃないの?弱くない?」 「ぐっが…あ゙っ…」 …信じらんねぇ。あんな小さいのに…何者だよあの人… 「…心配する必要なかったか」 猫矢さんが隣でそう呟きながら、俺の体を支えて立ち上がらせてくれた。 「鼠谷、もういいんじゃないか」 「ちぇ、つまんなーい」 猫矢さんの声で腕を放された蛇川は、床にガクリと項垂れた。 「それにしてもトラくん、全然鈍ってないねー。さすが四段」 「そっちこそ。…さて、犬童…一緒に帰ろう」 微笑みながらそう言ってくれた猫矢さんを見て、それまで張り詰めていたものが解けて深く息を吐いた俺は、同じように笑ってしまいながら素直に頷いていた。
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