一匹狼が忠犬になるまで

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翌朝、学校の準備を終えた頃にスマホにメッセージが入った。 見てみると昨日連絡先を交換したばかりの犬童からで、内容は「家の前で待ってます」というものだった。 驚いて急いで家を出ると本当に犬童が立っていて、俺を見るなり勢いよく頭を下げてきた。 「おはようございます!」 「…おはよう…」 若干呆気に取られながらも、隣に並んで歩き出す。 すると犬童が「鞄持ちましょうか」なんて言ってきたので俺は思わず吹き出してしまった。 「なんで笑うんスか」 「い、いや…お前、いったいどうした?」 今までも何度か一緒に登下校したが、こんなこと初めて言われたぞ…。 「舎弟じゃないんだからそんなことしなくていい」 「舎弟だと思ってくれていいです」 「馬鹿か…普通に友達でいいよ」 そう言うと、犬童は何だか嬉しそうに笑った。 何だろう…何か…耳と尻尾が見えるぞ。何だこれは… そんな幻影に戸惑いながらも学校に着くと、校舎の階段の前で名残惜しそうに声をかけてきた。 「それじゃあ、また…」 「ああ。授業頑張れよ」 思わず頭に手を伸ばして撫でてやると犬童は満足げに笑みを浮かべたが、その後ろにブンブンと揺れる尻尾が見えてしまった。 いったい何だこれは。俺はどうしてしまったんだ。 昼休みになると、俺は弁当箱を2つ持って屋上を訪れた。 扉を開くと既に犬童が来ていて、俺を見ると勢いよく立ち上がって会釈をしてきた。 その様子に思わず笑みを溢しながら歩き、隣に座る。 たった1週間ぶりだが、なぜだかもっと久しぶりに感じた。 犬童の前に弁当箱を置くと、「あざっス」と言ってすぐに蓋を開けバクバクと食べ始めた。 相変わらず気持ちの良い食べっぷりだ。 それを見ながら、俺も自分の分の弁当箱を開けて箸を持った。 「猫矢さん、これすげぇ美味いっス」 煮込みハンバーグを持ち上げながら、少し興奮した様子で言ってくる犬童はやっぱり可愛い。 「そうか、良かった。俺の分も1つやろうか?」 自分の分のハンバーグを摘み上げてそう言ってやると、途端に目が輝き始める。本当に可愛い奴だ。 犬童の弁当箱に自分のハンバーグを置いてやってから、何気なく空を見上げる。 今日も見事な快晴だ。犬童と初めて会った日のようだな。 「なぁ犬童、食べ終わったら2人で昼寝でもしないか?」 「!、いいっスね」 俺の側で満面の笑みを見せてくれる犬童。それは以前は見られなかったものだから、きっと俺に対して本当に心を開いてくれた証拠だろう。 今朝から何だか態度が変わったなぁと思っていたけど、変わったというよりこっちが本当の犬童なのかな。 そんなことを考えて温かい気持ちになりながら、俺はまた晴れた空を見上げた。
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