一匹狼が忠犬になるまで

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午前の授業を終え昼休みになって、俺は朝決めた予定通り昼寝をするために屋上へ向かった。 最上階まで階段を登ると、いつも閉まっているはずの屋上の扉が少し開いていた。どうやら先客がいるらしい。 給水塔のほうに登ろうか、なんて考えながら扉を全開にして屋上に足を踏み入れると、見覚えのある銀髪が柵の足元に座っているのが見えたと同時に向こうもこっちに顔を向けて目を見開いた。 「犬童…お前か」 「あんた…なんでここに…」 「今日は天気が良いから屋上で昼寝しようと思ってな」 言いながら足を進めて、犬童のすぐ隣に腰を下ろす。 俺が座った瞬間、犬童はなぜかギョッとした様子だった。 どこかドギマギしている様子がいかつい見た目に合っていなくて笑ってしまいそうになりながら、鞄から昼飯の弁当を取り出した。 蓋を開けて箸を持ち、さぁ食べようというところで隣からの視線に気付き目を向ける。 犬童が俺の弁当を凝視していたが、俺が見てきたことに気付いたのかすぐにバッと目を逸らした。 「…犬童、お前昼飯は?」 「…もう食った」 「そうなのか、早いな」 そこで俺は、犬童の逆隣に何か空の袋が転がっていることに気付く。 あれは…メロンパンの袋?まさか昼飯、あれだけか? 「…犬童、そこにメロンパンの袋があるが、お前が食べたのか?」 「あ?…ぁあ…」 「それだけしか食べてないのか」 「…だったら何?」 「ダメだぞ。お前ただでさえ体デカいのに、ちゃんと食べないと」 「…食欲、ねぇし…」 そこまで言うと、犬童はそっぽを向いてしまった。 男子高校生があんなパン1つで昼を済ますなんて、本当に大丈夫だろうか。 「いつもそんな感じなのか?」 「………」 犬童は何も答えない。 沈黙は肯定、と取っていいのか… 俺は弁当箱から唐揚げを1つ摘み上げて、犬童を呼んだ。 「犬童」 「……」 「犬童」 「…」 「けーんーどーお」 「っ、何だようるせっ、んぶっ」 犬童がこっちを向いた瞬間、その口に唐揚げを押し込む。 「んぐっ、んん」 口が大きいから1個丸々入れても問題はなかったようだ。 盛大に顔を顰めて俺を睨みながら咀嚼を始めた犬童だったが、やがて眉間の皺が薄まり驚いたように目が見開かれ始める。 「………」 「どうだ?」 飲み込んだことを確認してそう尋ねると、「うめぇ…」と返事とも独り言ともつかない調子の答えが返って来た。 「口に合ったみたいで良かった。まだ食べるか?」 「え、ぁ、ぅ、いや…」 「遠慮しなくていいぞ。ほら」 今度は小さなハンバーグを摘んで犬童の口の前に持っていく。 犬童は唇を引き結びながら俺を見た後、ハンバーグに目をやってゴク、と喉を鳴らした。そして箸先にかぶりついて一息にハンバーグを口に入れる。 「美味いか?」 「………」 今度は無言だったが、確かに頷いてくれた。 その後もいくつかおかずをあげたが、なんだか動物に餌をあげてるみたいで楽しくて、ついつい自分が食べる分より多くあげてしまった。 「…ぁの…」 俺が弁当を食べ終わると、犬童が控えめに声をかけてくる。 「ん?」 「あ、りがとう…」 「……フ」 「!?、何で笑う!?」 「いや、悪い。くく…自分でも、よくわからん…」 「………」 俺を睨んでくる犬童がなんだか可愛く見える。俺よりデカいしゴツいのに。 「なぁ犬童、明日の昼もここに来るか?」 「え?」 「良かったら弁当、もう1つ作ってこようか?」 「!、あ…あれ、まさかあんたが作って…?」 「ぁあ、そうだが?」 「!……」 凄い目を見開いてるな。そんなに驚くことか? 「…で、どうなんだ?食べるのか? 遠慮はしないでいいぞ。1つも2つも大して変わらないからな」 「………食べ…たい…」 「よし、分かった。じゃあ明日も屋上に来いよ?」 「っ…」 肩に手を置いて笑いかけると、なぜか顔を赤くした犬童は慌てたように立ち上がった。 「!、あ、犬童…」 そのまま早足で屋上から出て行ってしまった。 結局明日もここに来るんだろうか? …まぁ、食べたいと言っていたしきっと来るだろう。 さて、それじゃあ寝るか。 空の弁当箱をしまって日陰のほうに移動した俺は、念のためケータイのアラームをセットしてから寝転がって目を閉じた。
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