一匹狼が忠犬になるまで

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その日の下校途中、今日の夕飯は何にしようかなんて考えながら歩いていたら、突然前方の曲がり角から3人の知らない男子が現れて立ち塞がってきた。 「よお。ちょぉっといーかなぁ?」 「…何だ?お前達は」 そう尋ねながら、ザッと男達を見回してみる。 他校の制服だが、どこか見覚えがある。 …そうだ、犬童と初めて会った日に見た制服だ。 ということはこいつらはもしかしてあの時の…? 「あんただよなぁ?最近犬童の野郎と一緒に行動してんの」 「…だったら何だ?」 俺の質問に男達は答えず、ニヤリと笑う。 その直後、背後から誰かに両腕を掴まれる感覚がして、脇に手を差し込まれて羽交い締め状態にされた。 見ると、前にいる男達と同じ制服の男2人が俺の両隣に立っていた。 …こいつらは俺を捕まえに来たのか。 あの日、犬童にやられていた奴らの顔はよく見ていなかったが、多分あいつらと同一集団だろう。 俺をダシに犬童に仕返しでもするつもりだろうか。 「大人しくしてりゃ乱暴はしないどいてやるよ」 そう言って、前方の男達が俺に背を向けた。 それと同時に右側の男が俺の脚を蹴って歩かせてくる。 「おら、お前も歩け」 どうにかしたいところだが我慢して、大人しく足を動かす。 犬童に注意した手前、俺がこんな道端でこいつらとやり合うわけにはいかないからな。 どれぐらい歩いただろうか。やがて男達の歩く先に倉庫のような建物が見えてきた。きっとこいつらの溜まり場か何かだろう。 男達が倉庫に入っていき、俺も中に入れられる。 よし、ここならもう大丈夫だろう。 倉庫に入ってすぐ、俺は右脚を素早く前に振り上げてから、右側の男の脚を思いきり蹴りつけた。 「うっ!?」 男の脚が一瞬宙に浮き、バランスを崩して体が前方に傾く。それを動くようになった右腕で腰の辺りを受け止めて持ち上げ、回転させて背中から床に叩きつけた。 「がはっ」 「なっ…うわっ」 すかさず逆側の男の体も掴んで、前方の奴らに向かって投げ飛ばす。 「ぉわっ、ぶね!」 「なっ、なんだ!?」 受け止められてしまったか。けっこう思いっきり投げたんだがな。 「て、てめぇ…!」 男達のうちの1人が俺の足元に転がっている奴を見て、途端に焦りを含んだ声を出す。 「俺が喧嘩なんかできないと思ったか?悪いな、柔道黒帯なんだ」 「なっ…」 「マジかよこいつ…!」 「っ…」 男達は息を呑んで歯を食い縛っている。 あれは、戦意は半ば喪失しているか。 一応警戒は解かずに、俺は男達に話しかけた。 「お前らに一つ言いたいことがあるんだが」 「は?」 「犬童のヤツは今、俺がもう喧嘩しないようにと言ったことを守ろうとしてくれているんだ。あいつに絡むのはやめてやってくれないか」 「はぁ?」 「ふざけんな!やられっぱなしで黙っとくなんてできるわけねーだろが!」 「…そもそも、犬童は向こうからふっかけてきたと言っていたが」 「っ、カンケーねぇんだよんなこと!」 …呆れた。自分達で勝手に喧嘩をふっかけておいて返り討ちにされたら逆恨みとは、あまりにも馬鹿すぎる。 「そもそもお前らはなぜあいつに喧嘩を売ったんだ?」 「…あいつを俺らのチームに誘ったら拒否しやがったんだよ」 俺の質問に当然のようにそう答える男に、思わず溜め息を吐いてしまう。 犬童がどんな風に断ったかにもよるかも知れないが、普通に引き下がればよくないか。どうしてそれで暴力に走るのか…俺には理解ができない。 ここ最近犬童と一緒にいて、そんなに悪い奴じゃないというのが分かった。 きっとこいつらと喧嘩したのも、転校の原因になったそれまでの喧嘩も、ただ自分を守るため、やられる前にやったというだけなのだろう。 自分から仕掛けたことは一度もないと言っていたし、少なくともこいつらと同じ人種では絶対にない。 「…とにかく、もう犬童に絡むのはやめてやってくれ。 俺を利用しようとするぐらいなんだから、まともにやってあいつに勝てないのは自分達で分かってるんだろ?」 「っ…」 「あいつは良い子なんだ。お前らとは違う。 自分達で勝手につるんでいればいい。人を巻き込むな」 それだけ言って、俺は男達に背を向けて歩き出した。 殴りかかってくるかもしれないので念のため警戒はしたままだったが、予想に反して男達は何もして来なかった。 そのまま倉庫を出ようとした時、外から誰かが走って来るのが見えた。 あの銀髪は…犬童? 「猫矢さん!」 「!」 俺に気付いたらしい犬童は名前を呼びながらすぐ目の前まで走って来た。 どうしてここに…? 戸惑っていると、ガシッと肩を掴まれた。 「大丈夫か!?怪我は!?」 「っ、だ、大丈夫…」 凄い剣幕にちょっと吃ってしまった。 俺の体を見回し無事を確認したらしい犬童はホッと息を吐いた後、後ろにいる奴らをギンッと睨みつけた。 「テメェら…ふざけてんじゃねぇぞ!!」 「っ」 急に凄まじい大声を出した犬童に、ビクリと肩が跳ねてしまう。 あの不良達も顔を真っ青にして立ち尽くしている。 「この人は関係ねぇだろうが!汚ぇことしてんじゃねぇよ雑魚共が!」 「け、犬童…!」 男達に向かって吠える犬童を制そうと名前を呼ぶが、ギリギリと歯を鳴らしながら額に青筋を浮かべる姿は完全に頭に血が上ってしまっているようだ。 「…ブっ飛ばしてやる…!」 「っ…ひっ…」 「っ!、犬童!ダメだ!」 そのまま奴らに向かって行こうとする犬童を、慌てて体を掴み引き止める。 せっかく喧嘩をやめようとしていたのに台無しになってしまう。 「止めんなよ!」 「犬童、いいんだ。もうあいつらは向かって来る気はない。 俺も無傷だ。何もされてない。放っといてもう帰ろう」 「っ……チッ!」 腹立たしそうに床を蹴りつけ出口へ歩いて行く犬童に、俺は何だか不安になりながら急いで後を追った。
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