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あれから家でも学校でも、授業の時間になっても、俺の頭は犬童のことを考えてしまうばかり。
会わないと。でも怖い。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、いつの間にか1週間が経過していた。
放課後になっても席を立たずにボーッと窓の外を眺めていると、朗々とした高い声が俺を呼んだ。
「トーラーくん!」
「…鼠谷(そたに)」
話しかけてきたのは同じクラスの鼠谷雪兎。
女子顔負けの小柄で可愛らしい外見をしている男で、親友というわけでもないが柔道部で一緒だったため、そこそこ話す間柄だ。
「部活はいいのか」
「今日は休みー。そんなことよりどうしたの黄昏れちゃって」
俺の前の席を陣取り、ニヤニヤしながらそう尋ねてくる。
「…何でもない」
「そんなわけないでしょー。最近なんか元気ないじゃん。
いつも堂々としてるトラくんがそんなしょげちゃってさ」
「しょげてない」
「はいはい。で、どうしたの?」
「………」
ニコニコ笑っている鼠谷だが、多分これは話すまで解放してくれなさそうな雰囲気だ。
一つ溜め息を吐いた俺は、犬童とのことを正直にすべて話していた。
「…ふーん…で、トラくんはその子と仲直りしたいわけ?」
「……」
話を聞き終えた鼠谷からの質問に、無言で頷く。
「それでそんなに悩んでるんだ。意外だね」
「意外?」
「トラくんって、来る者拒まず去る者追わずって感じだと思ってた」
「………」
「人に世話は焼くくせに嫌がられたらあっさり引くみたいなとこあったじゃん?」
鼠谷の言葉に、自然と今までの自分のことを思い出してみる。
以前、犬童に世話焼き、お人好しだと言われた。
考えてみると確かに、孤立していたり困っている人を放っておけなかったりはする。
けれど、その人が本気で自分を拒むなら無理に近寄ろうとはしないし、突き放されればそれで終わり。
こんな風に悩むことは今までなかった。
…どうして犬童にだけ、離れていってしまうのが嫌だなんて思っているのだろう。
考え込む俺に、鼠谷はまたニヤニヤと笑いだした。
「は~ん、なるほど。そうかそうか」
「…?」
1人で何か納得したらしいその様子に首を傾げていると、突然グイッと顔を近付けてきた。
「ウダウダ考えるより会いに行っちゃえば?」
「え…いや、でも…」
「らしくないよー。もっと行きあたりばったりでテキトーに行動するのがトラくんでしょ」
「…お前俺のこと何だと思ってるんだ」
もの凄く失礼なことを言ってくる鼠谷に文句を言うと、今度は腕を掴んで無理矢理立ち上がらされた。
「その子1年なんだよね?
銀髪なんて目立つ見た目してるならその辺の子に訊けばクラス分かるでしょ」
そう言いながら俺を引っ張り、教室の外へと連れ出していく。
「お、おい鼠谷」
俺よりずっと小さいのに、どこから出ているのか凄い力で引かれてろくに抵抗もできず、そのまま1階まで連れていかれてしまった。
1階に降りると、鼠谷は本当にその辺にいた1年を捕まえて話しかけた。
「ねぇねぇ君!」
「えっ、あ、はい!」
「犬童って銀髪の子、どこのクラスか知ってる?」
「け、犬童!?
え、えーっと…3組ですけど…」
いきなり話しかけられた1年はもの凄く戸惑っていたが、ちゃんとそう教えてくれた。
「3組ね、ありがと。行こうトラくん」
鼠谷はそのまま俺を引っ張って行こうとしたが、すかさず1年が呼び止めてきた。
「あ、あの!でももう教室にはいませんよ」
「帰っちゃったの?」
「はい。それに…何か校門のほうで柄の悪い奴らと話して一緒にどっか行ってたし…何の用か知らないですけど関わらないほうがいいですよ」
「!」
1年の言葉に俺は驚いて息を呑んだ。
柄の悪い奴らって…まさか…!
「その柄の悪い奴らって、他校の制服着てなかったか!?」
思わず1年の肩を掴んでそう尋ねていた。
「っ、え、えーと、そ、そうです」
「!……」
「トラくん…もしかしてそれ…」
「…っ」
「あっ、トラくん!」
考える前に、体が勝手に走り出していた。
鼠谷の言う通りだった。ウダウダ考える前に会いに行けば良かった。俺は馬鹿だ。
犬童に誰も殴って欲しくない。殴られるのももちろんダメだ。
たった1週間と少しの付き合いだけれど、あいつは素直で良い子だと俺は分かっている。
頼む犬童…誰も傷つけないでくれ。そして傷つかないでくれ。
以前連れて行かれたあの倉庫を目指して、俺は必死に走った。
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