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その夜、また夢を見た。そして分かった。分かってしまった。
ずっと気になっていたものの正体。
それは、”人間の手首”だった。
形状から、おそらく女性の右手だと思えるそれは、五指に一切の力が入っていないかの様に下向きにだらんとしていて、時折、風とともに左右に揺れている。
桜の木の下には死体が埋まっている、なんて話はよく聞くが、まさか上から下に向かって出てくるとは思ってもみなかったし、そもそも思いたくもなかった。
だが、そこで一つの疑問が残った。
”日に日に大きさを増している様に見える”というのはどういう事だろうか。
次の日、すぐに答えが分かった。
昨日は手首までだったそれが、今では前腕の半分ほどまで見えている。
大きさを増しているのでは無かった。
それは、桜の木から外に出ようとしているのだ。
直感的にそう感じた瞬間、全身に寒気が走り飛び起きた。
全身をじっとりと濡らす汗と肌に張り付くパジャマに不快感を覚えながら、同時に友人の話を思い出す。
あれはきっと見てはいけないものだったのだろう。
これまで何よりも綺麗だと思っていた桜が、今ではとても恐ろしいものに思えた。
それから桜を見るたび、あの得体の知れない恐怖を思い出すようになった。
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