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「じゃあ、今度無料体験に行ってみる?」
足に飽きた雫がリビングでリモコンを触っている。お母さんは荷物を片付け終わると、私の方を見た。
「行く、行く! 絶対行く! お母さんありがとう! 大好き!」
私がお母さんに抱きつくと、お母さんはびっくりしてるようだった。
「いつもいっぱい我慢させててごめんね」
抱きしめ返してくれたお母さんは頭をなでてくれた。あぁ、お母さんのにおいがする。懐かしいにおい。大好きなにおい。本当は私から謝ろうと思っていたのに、先を越されてしまった。そして、今更な気がして、やっぱり素直に謝れなかった。
「由衣も大きくなったね」
もうすぐ身長も追い越しそうな私の頭をまだなで続けている。
「もう、雫じゃないんだから、頭なでないでよ」
パッと離れてリビングにいる雫に話しかけた。私の声に振り向いた雫がニンマリと笑う。まあるい頬を指でつまんでぷにぷにと触る。ふわふわなほっぺたが気持ちいい。
いつもうるさいと思っていたけど、たまにこんなふうにかわいく思える時もあるんだ。
「ねえね、だっこ」
短い両腕は、私の方に伸びている。
「甘えん坊さんだから、仕方ないねぇ」
私は雫を抱っこして、小さな温もりを肌で感じた。私って、雫のお姉ちゃんなんだなぁ。かわいいやつめ。
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