桜になる

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桜になる

2度目の受験で合格。 何が良かったのか、 決め手がなんだったのか、 自分では、分からない とにかく、 やれるだけのことは、やった 来年は三年生なので、 もう一度 チャンスがないわけではなかったが、 大学受験とのダブル受験は、 事実上無理で、 どちらかを捨てなければならない。 だから、 今回が最後と思って 悔いが残らないよう 力を出し切れるよう それだけを念じて挑んだ。 自分の番号を見つけた時、 信じられない思いと “やっぱり神様のお告げ”と 両方が混在しているという 不可思議な状態だった。 同じスクールで、 同郷のりりかも合格。 まあ、 りりかは私と違って優秀だから、 当然なんだけど、嬉しかった。 合格発表があると、 喜びも束の間で 入学手続きで忙しくなる。 制服の採寸から 寮に引っ越しもあるし 普通の学校と違い、 準備する物も多いから大変だった。 そして、 入学式前に寮での過ごし方と 入学式の練習がみっちりある。 この時、私はある決意をした。 「在学中、 絶対叱られないようにする。 そのために、 どんな小さな規則でも必ず守る。 目立たないよう、 人と違うことをしない “私は、桜になる”」と 私は、意外と打たれ強くない。 ずっと、優等生できたせいか、 叱られることに慣れてなくて、 叱られると酷く凹む。 だから、 絶対叱られないようにしよう と思った。 成績上位の人は、 委員になるので、 否応なく叱られる(全体責任なので)。 私は、幸いというか 下から数えた方が早い成績だったので、 それは、ない。 自分だけ、気をつければいいのだ。 仲間同士の諍いも なるべくどちらにも与さず 仲裁することを心がけた。 桜は、 一輪一輪が同じだからこそ美しい。 華苑音楽学校は、 規律が厳しい事で知られている。 芸事も、基本は“守”だ。 まず、 基本である“型”を徹して身につける。 私は、 同期生の中でも 出遅れていることは間違いない。 焦らず、 “桜になりきる”事に専念しよう と思った。 そのお陰か、 よく叱られるといわれる 予科生時代も叱られることなく過ぎ、 本科生を終えて、 晴れて、 華苑歌劇団の一員として 入団する日を迎えられた。
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