運命の出会い

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運命の出会い

その出会いは、衝撃的だった。 「何、これ?」 (まるで夢のお伽噺の王子様みたい…) 母とたまたま出掛けた 大型電気店のTVコーナー。 その大画面に、王子様がいた。 それを見た瞬間(私、これになる!)と 愚かにも、 決意していた。 それは、 女性団員だけで構成している 華苑歌劇団の公演の放映だった。 北関東の地方都市に住む私は、 そういう劇団があることは知っていたが、観たことはなかった。 あまりの煌びやかさ、夢夢しさに 一瞬で虜になった。 こんなカッコイイ王子様、 見たことがない! リアル男子なんか、 足下にも及ばないじゃん! テレビ画面にかじりついて (私、絶対これになる。)と、 固く決意した。 とはいうものの…、現実には、 県庁所在地とはいえ、地方都市。 受験スクールなどあるわけもなく、 ピアノ教室やバレエ教室が数件あるだけ。 声楽を勉強できる教室さえない。 さいわい、演劇は元々好きで、 演劇部に所属していた。 身長も173㎝あり、 部の中では相手役に困ることがあったが、男役としては、有利だった。 とは、いうものの、 これでは、受験したところで、 合格するはずもなかった。 途方に暮れていたとき、 ふと、 新聞の折り込みチラシが目に入った。 “華苑歌劇団地方公演” 何年かぶりに、 地元の公会堂で地方公演が行われるというチラシだった。 よく読むと、 テレビ局とタイアップして、 懸賞に当たると入場券が貰えるようだ。 だめもとで、 家族の名前全部で応募した。 そんなことをしてはいたが、 私は、暇じゃなかった。 高校一年生になったばかりで、 しかも、進学した県立高校は、 県内でも有数の進学校だった。 大学に進むつもりで、 そこに入ったのだか、 とにかく、 授業に着いていくだけでも 大変だった。 そんな、 勉強と部活に明け暮れていたある日、 ポストに封書が届いていた。 差出人は、テレビ局。 ひょっとして!! はさみで慎重に封を切ると、 “華苑歌劇団地方公演”の 入場券が2枚入っていた! やった!当選だ! 母と観劇した舞台は、 もちろんテレビ中継とは 比べものにならない素晴らしさで、 改めて(絶対王子様になる!) 決意を固めた。 これは、私に“入れ”という 神様のお告げなんだ、と 勝手に思い込んだ。 両親に頭を下げ、 「受験させて下さい」と頼んだ。 元々両親は、 「やりたいことがあるなら、 頑張りなさい」 という考えの人だったし、 何処でどう聞いてきたのか、 「華苑歌劇団の学校を出ると いい縁談が来る」とか… 父自ら、 東京の受験スクールを 探してきてくれた。 ただし、成績を下げないこと。 これが、受験の条件だった。 確かに、 華苑に入れなければ、 大学受験するわけだから、 それは、当然だった。 しかし、 週に一日とはいえ、 往復5時間という… 大丈夫か、私? とも思ったが、 通い始めると その往復は、 いい学習時間になった。 高校の勉強に、 華苑受験の勉強。 学ばなければならないことは、 山ほどあった。
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