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未来のために
「本当にいいのか?」と城崎が結月に言った。
「はい。これでいいんです」と結月が言った。
ここは、とあるホテルのラウンジ。
「わかった。出発は3月1日、11:00の
ボストン行き」と言うと城崎は結月の前に航空チケットを差し出した。
差し出されてチケットを結月は見つめていた。
「楓君のことはいいのか?」
「彼のことは……もう」
「好きなんだろ? 彼のこと」
「僕は、最初、結月君が寂しさを紛らわすために彼を傍においたのかと持っていたんだ。でも、君の家で彼と君の演奏を……二人の音色を聴いた時に思ったよ。
言葉にも出せず、互いに想い合ってるだけで
それが、音色から伝わってきてなんか切なかったよ。君たち二人を見てると……。
そして、結月君は、俺と一緒にいた時間よりはるかに短い彼との時間の中で、彼と一緒に音色を奏でるうちに彼のことを本気で好きになってしまった。ちがうか?」と城崎は結月の目を見て言った。
「城崎さん、私、楓君のことが好きです。
でも、彼の未来はこれからなんです。私が彼の未来の邪魔になるのはいやなんで。彼を私に縛り付けたくないんです。彼には、彼の選ぶべき道があるはずだから……。
それに、彼は今まで『一度も私のことを好きだ』と言ってくれなかった……。
でも、私は彼のお陰で、またこうしてピアノと向き合うことが出来たから。彼からは沢山、沢山色んな音色をもらいました。
だから、私は彼の奏でる音色を思い出しながらこれから先、音楽家として生きていこうと思います」と目に涙を浮かべた結月が言った。
「結月……」と城崎は彼女の頭に手を置くと言った。
「大丈夫だよ。彼のことを思い出せないくらい、俺がまた一からピアノを叩き込んでやるよ。だから、元気だせ」と城崎は微笑んだ。
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