楓の思い

1/1
前へ
/31ページ
次へ

楓の思い

卒業式を間近に控えた頃、楓は仁と心春と音楽室に呼び出した。 「楓、どうしたの?」と心春が楓に聞いた。 「心春、お前に話がある」 「何? 結月さんとのこと? 私、聞きたくないな」と結月が教室を出ようとする。仁が結月を追いかけ手を握った。 「心春、逃げないで、ちゃんと聞いてあげて。楓の気持ち」と仁が心春に言った。 「心春、俺ね結月さんのことが好きなんだ」 「知ってるよそんなこと」 「でもね、近いうちにお別れするんだ。だから心春にはちゃんと話しておこうと思って」 「なんで? お互いに好きなのになんでお別れする必要があるの?結月さんもひどいよ。昔の恋人の城崎さんが現れたから、そっちに行くなんて楓が可哀そうだよ。これじゃまるでピエロじゃん」と語気を荒げる心春。 「心春、ちがうんだ。ちがうんだよ心春」 「何がちがうの?」 「俺が、俺が選んだんだよ。この恋を、苦しい恋を、辛い恋を。そして、彼女の未来のために決めたんだよ別れを……」 「わかんないよ。恋するって、幸せになる事じゃないの? こんなんじゃ私、楓のこと諦められないよ。私は、楓みたいに大人な考えは出来ないしマジでわかんないよ。お子様の私にはわかんない」と言うと、心春は泣き出した。 「心春、楓が選んだ答えなんだよ。だからさ、わかってあげて」と仁が優しく言った。 「心春、ごめんな。俺、心春が思い描くような恋はできなかった。こんな恋しか選べなかった。泣かないで心春」と言うと楓は心春の頭を優しく撫でた。 楓の言葉を聞いた心春は 「楓は大人なんだね。大人の恋をしちゃったんだね」と言った。 楓は微笑むと「ちがうよ。まだ俺は大人になっちゃいけないらしいんだ……」と心春に言った。 放課後の音楽室。 三人が卒業するまであとわずか……。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加