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朝の風景
トントントンとキッチンから、包丁の音がする。
ダイニングテーブルには、朝食のメニューが並び、その前には新聞を開く男性の姿。広げた新聞の横から顔を出した。
「楓、おはよう。今朝は早いな」
と声をかけた。
「父さん、おはようございます」
返事をすると首にかけたタオルをテーブルの端に置いた。
「ジョギングにでも行ったのか?」
「いや、目覚ましに……シャワーを」
「そうか、ところで楓、進路はもう
決めたのか?やりたいことはあるのか?
来年は受験だろ」
「いいえ、まだ決まっていません」
「まあ、こっちは長男が継ぐとしてお前はじっくりと決めるがいい」
「はい……」
「あなた、楓も困ってるじゃないですか。朝からそんな話」と言うと母親はテーブルに珈琲カップを置いた。
いつもと変わらない朝の風景
「ごちそうさまでした」と言うと楓は席を立ちソファーに置いていたカバンを脇に抱えリビングを後にした。
「楓、いってらっしゃい その、お父さんが言ったこと気にしなくていいから」と母親が楓に言った。
相田 楓 18歳
家族構成は両親と本人、2人の兄の5人。
2人の兄は二人とも自立し家を出ているため、現在は両親と楓の3人暮らし。
楓の家は町内でも有名な豪邸と言われており、父親は大病院の2代目経営者、
長男、次男も職業に父親同様医師を選んだ。
年の離れた三男の楓は比較的自由に育てられた。
「わかってるよ。母さん、ありがとう。行ってきます」と言うと楓は玄関のドアを開けた。
いつもの通学路、楓は一人歩く。
「楓、おはよう」と幼馴染の中田仁が声をかけて合流する。
「ああ、仁 おはよう」いつもの通学路を
歩く二人。
「楓~ 仁~ おはよう」息を切らしながら
二人の元へ女の子が走ってきた。
「おはよう~ 心春」と仁が明るく挨拶する。
「おはよう 心春」と楓が静かに声をかける。
楓 仁 心春は小学校からの幼馴染。
いつもの見慣れた通学路を三人で歩く。
三人の出会いは小学一年生、入学式の
写真には、
二人より少しだけ背が高く、すまして立つ楓
可愛く首を横に少しだけ傾け、笑顔で並ぶ心春
おどけた顔でピースサインをする可愛い顔の仁。彼らはいつも一緒。
特に共通の趣味があるわけでもなく、
始終一緒というわけでもないが、
三人はこれまでいつも一緒に成長してきた。
桜が舞い散る 春。
今日も変わらぬ朝の風景。
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