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通学路
音楽室を出た三人は通学路を歩く。
「楓は、もうピアノ弾かないの?」
と仁が言った。
「弾いてるだろ。さっきも」
「ちがうよ……その、そっちの道はもう目指さないの?」
「ああ、もうピアノは……うん、趣味程度でいいんだよ」
「ふ~ん。俺、てっきり楓はピアニストを目指してるのかな? って思ってた。コンテストであんなに注目されてたのにさ。急にピアノやめたから……」
「……」仁の言葉を聞いた楓は無言で歩く。
「まあ、いいじゃない。楓が選んだこと
だから」と心春が言った。
「そうそう、そうだ!ごめんな楓。
しつこく聞いて」
「別にいいよ」と楓が微笑んだ。
「あっ! 駅前に新しいプリクラ機が
入ったんだ。三人で行く?」と心春が言った。
「おっ! いいね~。ついでにカラオケに
でも行く?」
「いい! 私行く! 楓は?行く?」
と心春が楓に聞いた。
「俺はいい、前から言ってるけど本当に苦手なんだ 賑やかな場所やプリクラとか」
と楓が言った。
「そうか……わかった」と仁が言った。
「じゃあ、俺こっちだから」と楓が立ち止まり二人に言った。
「楓、また明日な」と仁が言う。
「楓、また明日」と心春も言った。
「ああ、また明日」と二人に言うと楓はひとり歩いて行った。
楓の後ろ姿を見送る二人。
「楓、いつもひとりで歩いて行っちゃうよな。
昔から……」と仁が言った。
「うん、時々思うよ。そのうち私達の前から
突然いなくなるんじゃないかって」と心春も言った。
「うん、それは考え過ぎだよ。心春」と仁が微笑みながら言う。
「そうか。考え過ぎだね」と心春も笑った。
「プリクラ撮りとカラオケ行くんでしょ?」
「勿論、行くよ」
仁と心春は通学路を歩き駅前に向かった。
ひとり家路に向かう楓、立ち止まると空を見上げて深い溜息をつく。
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